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大阪で働く法務パーソンのはなし

取引先が減資したらいつから下請法を守ればいい?

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取引先が近日中に減資を行い、当社との取引が下請法の対象になることになりました。現在の支払サイトは60日より長いので、短縮しなければならないのですが、改めて考えると一体いつから下請法に従えばよいでしょうか。

節税対策?で資本金を1億円以下へ

取引基本契約では、減資を解除事由のひとつにすることもありますが、私の経験の限りでは、深刻な経営悪化で減資する企業はほとんどなくて、税務メリットを享受するために行われることが多いです。

当社のグループ会社でも実例があるのですが、独立運営していた企業がどこかの傘下に入ったタイミングで減資をして資本金の額を1億円以下に減らすことがよくあります。今回の取引先もそうでした。これは、資本金1億円超の法人に適用される外形標準課税から逃れるためだと推測。
会社法ばかり見ていると、「減資とは数字をいじること」なので、下請法然り、資本金の額で企業体力を測るのは正しくないと思う。。

下請法が適用されるのは減資効力発生後発注分から?

そんなわけで、資本金の額は変わるけれど、資金繰りが苦しいわけでもない(むしろ融通がきくようになったはずの)取引先ですが、下請法は資本金の額以外にものさしがないので、当社はやむなく親事業者になってしまいます。
下請法に従い、4つの義務と11の禁止行為を遵守しなければなりません*1

では、一体いつから下請取引と扱うべきか。選択肢として考えられるのは、以下の3つでしょうか。

  • 減資後に発注した分
  • 減資後に契約が成立分
  • 減資後に受領した分

下請法4条1項柱書は、次のように書かれています(下線は筆者)。3条も「製造委託等をした」ときは直ちに3条書面の交付を義務付けていますし、4条2項も「製造委託等をした」ときは下請事業者の利益を不当に害せません。

 

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(略)に掲げる行為をしてはならない。

そうすると、製造委託等を「する」には、下請事業者の承諾が必要なので、厳密には減資後に契約が成立した分から下請法が適用されるようにも思われますが、減資前日に発注し、減資効力発生日後に請書が届いた場合に「下請取引ね」と言われるのもなんだか納得がいかない。ここは、発注分からということでよろしいでしょうか。。よろしくないですよね。。。

有償支給品の代金決済

支払サイトの短縮は、ただ支払日を前倒しにすればいいだけなので、当社としてもさほど大した話ではありません。厄介なのは、有償支給品の代金決済です。

これまでは、製造委託代金と同じタイミングで支給品の代金も締めて、当社の支払タイミングで相殺していました。じゃあ、そのサイトをスライドするだけで解決!となればいいのですが、下請法には早期決済の禁止という親事業者の義務があります(下請法4条2項1号)。有償支給品の代金決済は、「使った分だけ」しかできなくなります。

ある発注でどれくらい支給品が使用されるのか、歩留まり率はいくらか、といったことは理論値で出せるとはいえ、その計算・確認の手間が増えるんですよね。。

親事業者になるタイミングはコントロールできない

契約上、減資をするには事前承諾や事前通知を義務付けることができても、それは減資の効力発生にはなんら影響を及ぼしません。親事業者となる企業には、相手がいつ減資するかをコントロールすることはできないのです。
(もっと暇なときに、キリのいいときに、減資しておくれよ…)

下請法の精神(中小企業の保護)は理解できるのですが、大企業の傘下に入って、税務メリットを享受するために減資するような企業との間でも、合意があったとしても下請法の適用を除外できないなんて、馬鹿げていませんかね。誰得なの、まったく。親事業者にはトンネル規制があるのだから、下請事業者にもトンネル規制?を作ってほしい。

*1:別の当社のグループ会社でも、外形標準課税対策で減資を検討したのですが、自社が下請事業者になって取引先に手間をかける→取引先に切られるかもしれない、ということで見送ったことがありました。。