所属先では、忘れたころを見計らって危機対応のトレーニングを行っています。今回は、久々に外部の協力も得てメディア対応のトレーニングを行いました。
実際に危機が起きると、「法務としてやること」が色々あるはずですが、トレーニングでは終始情報整理に追われて、これで大丈夫かしら?と不安になりました。そういう危機感を持つためのトレーニングだから、トレーニングとしては成功かもしれませんが。
事実関係の確認かメディア対応か
トレーニングは、当社の関係先で死傷者の出る事故が発生し、当社にとって不利かつ不確実な情報による報道が過熱しているため、数時間後に緊急会見が必要という設定で行われました。
参加者(危機対応チーム)には、事故の概要、その時点で把握している断片的かつ不確実な情報が紙ベースが渡されてヨーイドン。
法務パーソンでなくても、まずは次のようなことについて、正確な情報がほしいところです。
- 現場の写真
- 事故の原因
- 被害者の人数、状態、搬送された病院
- 関係先と当社との関係
- 出回っている不利な情報の真偽
- 警察からの情報提供・協力要請の詳細
とはいえ、すぐに確かな情報を入手するのは難しい。死傷事故だと、警察が証拠を持っていってしまっているでしょうし。実際には、記者会見をするかどうかは手元の情報や二次被害のおそれなどを見て決めるはずですが、トレーニングでは開始時刻も決まっていて、情報収集もそこそこにメディア対応の準備にかかりました。現実にもそうなりそうです。
何に謝罪するのか?
外部アドバイザーもおっしゃっていましたが、死傷事故が発生して記者会見を開く以上、「謝罪がない」のは到底社会が受け入れません*1。
とはいえ、原因が不明なので具体的な謝罪をすることはできないし、今まさに手当を受けている被害者もいるという状況だと、被害者への補償も不謹慎に聞こえます。なので、「当社の関係するところで事故を起こしてごめんなさい。みなさんを心配させてごめんなさい」といった謝罪をすることになるでしょう。
「メディアは『申し訳ありません』と深々お辞儀する画を撮りたいから、サービスとして撮らしてあげましょう」とアドバイザーも言ってました(もちろん、こんなに直截な言い方ではなかったですが)。
キーメッセージとして何を出すか
「このたびは申し訳ありませんでした(お辞儀5秒)」で終われるなら記者会見はお安い御用ですが、そうはいきません。それに、記者会見は、伝えたいことがあるから開くものです。
というわけで、記者会見で伝えるべきこと、「キーメッセージ」をしっかり社内で握っておくことがとても重要。「そんなの当たり前じゃないか」という話ですが、重大事故となると関係者が多くなり、危機対応の部屋にはあっという間に20人、30人と人が増え、決まるものも決まりにくくなってしまいます。
必要な情報が揃わないうちに開く記者会見では、次の3点がキーメッセージになると私は捉えています。
- 謝罪(と快復祈念)
- 現時点で原因は特定できていないが、原因究明に努めている
- 今できることをしっかりやる(せめてひとつは期限とともに提示する)
準備が肝要
記者会見で大切なのは、キーメッセージ(その時点での結論)をしっかり伝えることです。そして、聞かれたら答えること、聞かれても答えないこともできるだけ事前に峻別し、記者があの手この手でスキをつこうとしても、うまくかわしてキーメッセージにつなげるという話術も求められます。
そのためにも、準備が大切です。アドバイザーも、時系列で話すようでは失敗する!とおっしゃっていました。
では、どうすればよいのかというと、起きた危機(事故)のステークホルダーをどれだけイメージできるかにかかっているようです。炎上とは、大抵の場合が「ステークホルダーの見落とし」なのだそうです。
なるほど。記者の向こうにどれだけの人を思い浮かべられるかが大切なんですね。これは、法務チームが得意なところではないでしょうか。
法務にできること
危機対応のチームに法務が入っても、書記とか弁護士の窓口とか雑務っぽいタスクをすることが多いかもしれません(私はそうです)。でも、私は喜んでその仕事を引き受けています。というのも、そういった仕事は、実はファシリテーションを握るからです。
記録や弁護士への確認を口実に、
- 「キーメッセージはこれでいいですか?これは不要ですか?」
- 「先ほどキーメッセージはこうだと合意しましたが、この話はずれませんか?」
- 「時間に余裕がないのでこの話を先に進めたほうがよいのでは?」
という感じで、全体を俯瞰・整理しながら、伝えるべきこと・伝えるべきでないことの解像度を上げることができます。そして、おそらく、普通の会社でこういうトレーニングを日常的に最も行っているのは法務でしょう。
そのほか、過去の危機対応や先日のトレーニングを経験して思うのは、広報チームがつくるリリースやQAも、法務は目を通したほうがいいです。一字一句が受け手に与える影響を考える鍛錬をしている法務の腕の見せ所です。
特に、危機対応チームの人数が増えると、「決まるものも決まらなくなる」だけでなく、一人ひとりが他者をあてにしてしまって、「まぁ、他の人が指摘していないからいっか」みたいに場の雰囲気に流される危険があるので要注意。
危機にあっても、
- 冷静さ
- 物怖じしない強さ
- 木も森も見る目
といったいつも使っているスキルが会社を助けます。結論、危機対応チームには、ファシリテーターとして動く人と、法務マターを司る人、複数いたほうがいいと思います。