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大阪で働く法務パーソンのはなし

登記書類の完全電子化に挑戦

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昨年から、子会社で取締役会議事録の電子化に取り組んできましたが、ついに株主総会の時期がやってきて、初めて登記書類の完全電子化に挑戦しました!
結果、特に問題なく完了できました。

登記事由は役員変更(重任・辞任・就任)

今回の登記事由は役員変更のみでしたが、重任だけでなく、辞任と就任もあったので、子会社で起きそうな登記としては書類が多いほうです。
最初のケースとしてはハードルが高いかも…と心配しましたが、終わってみれば、今後はあれこれ迷わなくて済むので、最初に経験できてよかったと思います。

用意するもの

今回の役員変更登記申請は代表取締役の交代がなかったので、添付書類は次のとおりでした。

  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録
  • 辞任届
  • 就任承諾書
  • 本人確認書類
  • 株主リスト
  • 登記委任状

これまでは、これらの書類を印刷して各自に押印をもらい、遠方の子会社の場合には現地に送って代表印を押してもらっていましたが、電子化すればそれは一切不要です。代わりに必要になるのが、

申請用総合ソフトのダウンロードと利用が少し心許なかったですが、やってみるとどうということはありませんでした。会社の代表印が押し放題になってしまうのはいいのか?と心配になりますが。。

本人確認書類(免許証コピー)もPDF+電子署名でOK

登記申請書類の準備にあたっては、条文や通達はもちろんのこと、事前に司法書士の方のブログやこちらの書籍でも調べ、取締役会議事録と登記委任状にさえ商業登記電子証明書電子署名をつければ、あとはすべてクラウドサインでOKだと理解しました。

実際には、代表取締役電子署名を頼むよりもこちらで商業登記電子証明書電子署名をつけるほうが早いので、株主総会議事録や株主リストなんかは商業登記電子証明書のほうで処理しましたが。

一点、本人確認書類については正面から解説してくれるものが見当たらず、免許証の両面コピーに奥書をつけたら、それは「紙」になってしまって電子署名の対象にならないとかいわれるかも?と心配したのですが、登記をお願いする司法書士に確認してみると、当然「紙をPDF化したものに電子署名をつければOK」とのことで、登記も問題なく完了しています。

担当者が送信しても登記に差支えはなかった

クラウドサインなどの電子契約サービスを使うと、ファイルの送信者の氏名やアドレスが署名パネルに記載されます。
議事録に出席役員として記載されていない者の電子署名があることを問題視する登記官がいるかも?という懸念が上記の書籍(p.247)で指摘されており、ちょっと心配しましたがこちらも問題なかったです。

当社の場合は、事務局専用アカウントを作成しており、このアカウントから議事録や就任承諾書などを送信しました。

役員へのレクチャーは丁寧に

ほぼ唯一、紙に比べて「手間」だったこと。それは、新人役員へのクラウドサインの使い方の説明です。最初の1回だけとはいえ、60歳前後となると横についてマンツーマン対応したほうがよいと思います。

クラウドサインの場合は、

  • クラウドサインというところからメールがきます。
  • 怪しくないので、内容を確認しながら赤いボタンをクリックしていってください。

といえば、電子署名はすぐに完了します。そこで終了してもよいのですが、「電子署名は、署名パネルから確認できますよ」という説明をしようとすると、リモートでは難しいためです。

議事録の電子化でクラウドサインの使い方を説明するたびに同じ質問を受けたのですが、やはり今回もこの質問がありました。

  • 印影がないけど大丈夫なの?
  • 原本かどうかはどうやってわかるの?印刷してもわかる?

印影画像をつけたほうがみんなにとってわかりやすいかな?と思うこともあるのですが、印影をつけるようにセットするのも手間ですし、非生産的なことはやめようと、今のところ取り入れていません。

思わぬネックー電子署名は会議の後に

基本的には順調かつ簡便に準備を進められましたが、思わぬ落とし穴が。

それは、【電子署名は会議の後に】ということです。
2月14日付の会議なのに2月13日に電子署名したり、お昼からなのに午前中に電子署名したりしてはいけません。

「議事録は会議の後に作るものなのだから当然だろう」と思われるかもしれませんが、子会社の株主総会・取締役会は予定調和ですし、大きな声では言えないものの「やったこと」にしている(か、真面目な会社なら全部書面決議)ところも少なくはないでしょう*1

ハンコだったらいつ誰が押したかの記録は一切残らないので、ズルをしても登記官は知る由がありません。紙ベースなら、事前に書面を作って役員に押印をもらっておくこともできましたが、「電子署名でそれはダメ!」と司法書士さんに厳しく言われました。登記官が本当にそこまで細かくチェックするのか不明ですが。

結果として、株主総会当日に登記申請をすることは難しくなりましたが、電子署名はメールで取り付けられますし、必要書類も会社→司法書士さん→登記所とすべてオンラインで提出できるので、2週間以内に登記申請することに差支えはありません。

社外役員がいる上場企業でやるのはまだ難しいのですが*2、慣れれば早いし簡単なので、子会社群は全部このスタイルでやっていく予定です。

*1:実際、法律事務所ではそういう会社の議事録作成を多数請け負っています。

*2:取締役会議事録を社外役員のメールアドレスに送ることにセキュリティ上の懸念を持っています。社内PCを貸与してアドレスも渡せば済むのですが。。