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大阪で働く法務パーソンのはなし

海外売上高を把握する

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独占禁止法・競争法上の問題を検討しなければならず、「グループの国内売上高や海外売上高を教えてください」と弁護士に言われました。

「本当は、こういうデータを出さなければいけないんだろうな…」と思いつつも、細かく指定されなかったことをいいことにズボラをしたら、案の定「これじゃない」と言われ、ただいま逃げ出したい気分です。。

弁護士の方は、欲しい情報があるときは、クライアントに細かく指示してください。
(自分のものぐさと国語力のなさを棚に上げて言いました。)

独占禁止法上の「国内売上高」

国内で企業結合をするとき、グループ(親会社・子会社)の国内売上高がいくらかによって事前届出の要否が異なります(独占禁止法10条2項)。

「国内売上高」とは、「国内において供給された商品及び役務の価額の最終事業年度における合計額として公正取引委員会規則で定めるもの」のことで、届出規則2条に詳細が書いてあります。
ざっくりいえば、原則以下の合計が国内売上高です(届出規則2条1項)。

  1. 国内の消費者に対する売上
  2. 法人や事業者に対する売上のうち、国内で供給されるもの。ただし、そのまま外国へ輸出されることを契約締結時に知っているものは除く。
  3. 法人や事業者に対する売上のうち、外国で供給されるものであって、そのまま日本に輸入されることを契約締結時に知っているもの。

グループ会社分を計算するには、各社全部出して、足して…をやるのが基本ですが、連結財務諸表提出会社は、その注記を転用して国内売上高の合計にしてよいことになっています(届出規則2条の3、2条の5、届出制度Q&A・届出基準について問10)。

よって、連結財務諸表を作成していれば、自社グループの国内売上高を把握するのはそれほど大変ではありません。さらに、上場企業はそれを公開しているので、弁護士からリクエストされてもURLを送れば解決です*1

「海外売上高=海外拠点の売上高」ではない

ほぼ内需で成り立っている当社グループでも、多少の輸出はありますし、海外拠点もいくつか持っています。そうすると、たとえ国内企業同士の企業結合でも、海外の競争法も検討しなければなりません。

日本の企業結合法制にも明るくないので、海外は無知もいいところですが、「国内売上高」の計算方法は日本と大差ないのだろうと思っています。つまり、その国に所在する拠点の売上高(輸出含む)ではなく、その国向けの売上高を見なければならないはず。

しかし、弁護士から「海外売上高を国別に教えてください」と言われた際、この説明(念押し)がなかったので、「海外拠点の売上高」を拠点別に提出したところ「これじゃない」と言われたのでした。
クライアントの中には、私のように「言われなかったから、とりあえずこれでいいや」と済ませる人もいるので、弁護士の方はお気をつけください(海外拠点の売上高を聞かれていると勘違いしたスタッフもいましたし…)。

言い訳をすると、当社グループの事業スタイルは以下のどちらかなので、拠点の売上高を見ておけばとりあえず十分だと思ったんですよね。細かいことは、危ない国だけ調べればいいのではと。

  • 拠点所在国内で内需向けに製造販売。輸出することがあってもわずかな上、グループ会社向けが多い。
  • 当社グループから輸入した商品を拠点所在国内で販売。仮に第三国へ輸出することがあってもごくわずか。

国別売上高を把握するのは面倒?

なぜ拠点別売上高で済ませようとしたかというと、国別売上高の情報取得はハードルがあがるからです。法務の力だけでは取れず、ファイナンスチームにお願いしなければなりません。
決算発表前のこの超多忙期に頼むなんて申し訳ない上、情報の性質的にも気後れします。大したシェアがないことが明らかな情報を「精査しなくて大丈夫」と確認するために教えてほしいだなんて。

しかし、結論からいえば、すんなり入手できました。その理由は、当社グループが連結財務諸表をつくっているからです。注記で地域別の売上高も記載するんですよね。
開示には多少裁量があって、「日本・A国・B国・その他」といった書き方でもよく、必ずしもすべての国別売上高が記載されるわけではありません。しかし、ファイナンスチームは、どのグループ会社がどこへ輸出しているか、そのうち内部取引がいくらか、という生データを持っており、これをもらえば一丁上がりでした。

「全部把握するとか無理!」と思いましたが、数字のことはとりあえずファイナンスチームに相談してみるものだとつくづく思いました。そして、弁護士の方はズボラなクライアントにご用心。

*1:「それくらい調べてほしいな」と思いつつ、会社に聞くことで最新であるかを確認しているとポジティブに捉えています。