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大阪で働く法務パーソンのはなし

「お門違い」な少額訴訟にも代理人弁護士を立てるか

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当社グループでは、数年に1回裁判沙汰になります。

多くがそうだと思うのですが、自社が訴えたり、企業から訴えられたりするのはよほどのことで、訴訟になるのは個人かそれに近い規模の事業者から訴えられるケースばかりです。当社の場合、相手方に代理人がつかないこともよくあります。

金額も小さめのものばかりですが、こういうケースでも外部弁護士に訴訟代理人を委任すべきでしょうか。

「お門違い」な訴訟

訴訟に発展するいつものパターンは、ある日突然「おたくは違法行為をしているからお金を払え」という要求が事業所に来て、現場がちょっと頑張ってみるものの、相手が法律の知識がある(かのように)振る舞うので、本社に対応依頼があり法務に回ってくる、というものです。

この書き方だと不当要求みたいですし、当社としてはそれに近い印象を持つことが多いのも事実です。どこかで大きく勘違いだったり、誤認があったりと「お門違い」であることがほとんど…

現場レベルで対応するときに、「失当ですよ」と相手に言えれば大事にならないかもしれませんが、現場で発見してもらうのはハードルが高いといわざるを得ません。相手の主張に理由がないことがわかるのは、法務で事実関係を改めて整理したときです。
そうすると、向こうも引くに引けないところがあるのか、なかなか納得いただけません。こちらも早期解決を目指して、受入可能な妥協点を探って提案してみるのですが、ここまでくれば「お話にならない」ことがほとんどです。突き上げた拳を数万円で下ろすわけにはいかないのですね。

呼出状は忘れたころに

「主張には理由がないので、要求をそのまま受け入れることはできない」とはっきりと伝えると、「埒があかないので、法的手続に入ります」などと言われて連絡が途絶えます。合理的に考えれば失当なので、しばらく連絡がなければ「あきらめてくれたのかな」などとプラスに解釈して、記憶も薄れていきます。

しかし、呼出状は忘れたころにやってきます。
せっかく詰め込んだ情報が抜けた頃、どんなに早くても最後の連絡からひと月はかかる印象です。また一から情報をインプットしなければなりません。

自力でやるか代理人にお願いすべきか

  • 原告は個人又はそれに近い事業者で本人訴訟
  • 金額は僅少(簡裁レベル)
  • そもそも訴える相手が違うなど「お門違い」

という場合、こちらも代理人を立てなくてもよいのではないか?という考えも浮かぶのですが、当社ではこれまでのところ、すべて弁護士を立てて対応しています。厳密には、法務で事実関係を整理し、落とし所を考えるあたりから弁護士に入ってもらっています(原則、訴訟になるまでは弁護士名は表には出しません)。

弁護士を立てる理由は、ひとつには「原告の主張に応じるつもりはない」というメッセージを出すためです。
もうひとつ、最近特に思うのは、「法務パーソンが訴訟対応スキルを身に付けても使うところは少ないので、プロに任せるほうが賢明」ということです。

とりわけ当社のような通常業務を回すだけでも精一杯の小規模法務で、訴訟に手をとられるのは痛いです。
もっとも、事実確認や資料収集は法務パーソンが音頭をとらざるを得ず、訴訟になれば少なからず手はとられます。数年に1回しか起きないのに、さらに裁判所とのやりとりや出廷、準備書面や証拠の作成・提出などまで手掛けることは難しい。
ここはプロに頼む方が合理的だと最近よく思います。それだけ日常の業務が切羽詰まっているということですね・・・

若いメンバーは、もっと訴訟に関与してみたいと思っているかもしれませんが。

タイムチャージか着手金&成功報酬か

訴訟代理を引き受けてもらう弁護士の報酬パターンには、

  • タイムチャージ
  • 着手金&報酬金

の2つがあります。伝統的な事務所では、着手金&報酬金のパターンが多いように思われ、当社もこちらを提案されます。

以前は弁護士会が報酬基準を定めており、今もそれをベースにしているところが多いですよね。着手金も成功報酬も「(受けた)経済的利益の●%」というのが基本の計算です。

当社が巻き込まれるお門違いな少額訴訟では、顧問弁護士に対応を依頼することもあって、着手金はかなりディスカウントしてもらっています(それでも10万円くらい)。成功報酬は、相手方の請求が50万円で完全勝訴したケースだと「受けた経済的利益の額」が50万円とされ、これまた10万円くらいになります。これに、日当や経費が加算した額をお支払いします。

一方、大手法律事務所だとタイムチャージベースのほうが普通ではないでしょうか*1

「作業いただいた分だけ支払う」というほうが納得感もありますが、タイムチャージで考えると、20万円だと若手の弁護士でも10時間分ほどなので、着手金&成功報酬のほうがお得感があるような気がしています。

*1:弁護士だけでなく、パラリーガル分もタイムチャージされます。