Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

根抵当権の債務者の合併

f:id:itotanu:20220227112418p:plain

わずかではありますが、当社では売掛金の担保として、不動産に根抵当権を設定することがあります。そういう取引先から自社が消滅会社となる吸収合併の催告書が届き、今後の対応を検討しました。

結論、当該吸収合併との関係では当社にすることはないのですが、久しぶりに登記事項等を見てみると、この機会に見直すべきところがありました。

合併の効力発生後は存続会社の債務も被担保債権に

吸収合併は一方が他方を完全に飲み込む組織再編なので、既存の権利義務は基本的にそのまま存続し、債権者側は合併に異議のない限り、特にすることはありません。合併後もこれまでどおり根抵当権を維持できます。

加えて、根抵当権の債務者の合併については、民法398条の9第2項に次のような定めがあり、合併後は存続会社の債務も被担保債権とすることができます。

 

元本の確定前にその債務者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債務のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。

体がひとつになった後は、債務が旧消滅会社のものかどうか見極めることができないので、そりゃそうだろうという話です。

存続会社の合併前の債務を被担保債権にすることもできる

民法はさらに、存続会社の合併前の債務を被担保債権にすることも許容しています。いつ使うんだろう?と思いますが、「存続会社も実は取引先だった」というケースがあるんでしょうね。

私の理解では、法律上、存続会社の合併前の債務を被担保債権に加える方法には、以下の3つが考えられるように思います。

  1. 合併の効力発生前に、存続会社を債務者に追加する(債務者の変更)
  2. 合併の効力発生前に、存続会社を債務者として根抵当権を新たに設定する(新規の根抵当権設定)
  3. 合併の効力発生後に、存続会社の合併前の債務を特定債務に追加する(被担保債権の範囲の変更)

弁護士に聞いてみると、「そんなに急いでやらなくても…」ということで、3が普通ではないかという話でした(聞く相手は弁護士より司法書士が正しいかもしれませんが)。もし、消滅会社に信用不安や税の滞納があり、他人に元本確定や差押えをされてしまう可能性があるなら、1や2も考えられるかもしれません。しかし、吸収合併するということは、よりしっかりした会社になるはずなので、そのような事態は考えにくいといってよいでしょう。

根抵当権の実行時には最新の状態を登記に反映する必要がある

当社の根抵当権は、銀行出身者が会社を牛耳っていた頃に設定したものがほとんどで、設定したきり使うこともなく放置しているのが実情です。今回のように先方が合併するなどのきっかけがないと、登記事項や設定契約を確認することもありません。

今回確認してみると、当社について

  • 過去の本店移転
  • 過去の組織再編

が反映されていないことが判明しました。もしかすると債務者や所有者もそうかもしれません。

現在のところ不動産登記(権利部)は変更登記をする義務がないので、そのままになっていることが多いのでしょう。これが所有者不明土地を生むのですね。。商業登記に親しんでいる人間には、違和感が大きいのですが。

とはいえ、いざというときはこのままでは機能せず、実行時には現実に合った変更登記が必要で、先方も今回の合併に伴う変更登記(債務者の名称変更等)をしなければなりません。そうでないと、部外者は何を信じていいかわかりませんもんね。

2024年以降、民法不動産登記法が改正され、所有権については相続や住所変更による変更登記が順次義務化されます。義務化される分、手続が簡便化されるみたいでありがたいのですが、乙区のほうも商業登記システムと連携してくれないですかね。。