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大阪で働く法務パーソンのはなし

「経営陣」と「法務の専門性」の意味を教えて欲しい

忙しくて後回しにしていた上期の自己評価。

評価項目に、「組織のビジョンや中期計画を描いているか」「経営陣とコミュニケーションをとっているか」みたいなものがあって、遠い目になりました。
奇しくも「経営法務人材」に関する話題がtwitterで賑わっており、他社の話を聞く機会もあって色々考えたのですが、消化不良なワードが2つ。

  • 経営陣
  • 法務の専門性

結構使われるけれど、解像度粗すぎませんか。

「経営陣」とは誰のこと?

法務の存在感や価値を高めるために、経営陣とコミュニケーションをとろうとよく言われます。

実際、経済産業省の「経営法務人材スキルマップ」でも「経営陣」への提案や説得、コミュニケーション機会を確立していることなどが管理職クラスのスキルになっています。所属先でも「経営陣」とコミュニケーションをとって組織の改善や発展に取り組んでいるかは、上級管理職の評価項目です。

しかし「経営陣」と簡単にいうけれど、誰のことなんですかね。キーパーソンでない役員と話しても、意思決定に活かされることもガバナンスや内部統制の改善に資することもないのに*1。たとえば、私の上司(一応取締役)とか…

弁護士の専門が細分化する時代の「法務の専門性」とは

法務組織や人材の話を立派な会社の方から聴かせていただくと、「法務の専門性を高めて経営判断に資する(戦略的な)法的助言を」みたいなオチになることが多いです。

ここで問いたいのですが、「法務の専門性」って何ですか?

知識?高度複雑で思考を放棄したくなるような難しい話を素人にわかるよう翻訳(意訳)するスキル?越えてはいけない一線を見極め、体を張ってでも踏みとどまらせる自己犠牲の精神?

ハードにせよソフトにせよ、法はどんどん増えるし、難しくなっています。外部専門家としての弁護士だって、一昔前に比べて細分化がぐんと進んでいます。
今の時代、「私はオールマイティ」なんていう弁護士がいたら頼まないほうがいいですよね。ブティック系事務所も増えて、大規模事務所に依頼しても松竹梅の「竹」コースのサービスになるおそれさえ出てきています*2

そんな時代に「法務の専門性」を高めましょうって、どういう趣旨でしょう…神になれというのか。

さすがに国内外の法や法律問題にすべて明るくなれというわけではないはずだけど、「法務の専門性」について納得できる説明をしてくれる方にはまだお目にかかれていません。

法務が高めるべきものは何か

私は、とどのつまり法務に必要なことは、

  • 鼻が利く
  • 何か「こたえ」をつくれる
  • つくった「こたえ」をステークホルダーに納得感をもって説明できる
  • いざというとき使える伝家の宝刀・ウルトラCを持っている

ではないかと思っています。これだけだと「法」は関係ないみたいだけど…

鼻が利く

法務の究極の使命は、会社を守る(従業員の生命・身体・生活を守る)ことだと思っているので、「大事なところ」「間違った判断をしそう」「これは専門家に相談したほうがいい」という重要なポイントを嗅ぎつける鼻がいります。これは、外注できないところですね。
鼻が利くためには、知識と経験がいるので、情報収集や勉強に励んだり情報が入ってくるような仕組みづくりに腐心したりするのだと思う。

何か「こたえ」を作れる

社内のクライアントは「法務に言えばなんとかしてもらえる」「法務は有益な助言をくれる」と思っているし、誰かにアクションをさせる(させない)ためには、何か「こたえ」を用意できないと仕事したことになりません。

つくった「こたえ」をステークホルダーに納得感をもって説明できる

とはいえ、誤解を恐れずにいえば、VUCA時代の「こたえ」は何でもよくて、その「こたえ」にどれくらい納得感を与えられるかが極めて重要。論理的な説明が基本だけど、時には感情をくすぐってもよい。「鼻」と一緒に継続的に鍛えるべき法務の筋肉です。
想像力、論理的思考力、聴く力、書く力(現場・専門家の言葉を翻訳する力含む。)そして良心の鍛錬は、このためのものだと思いますし、専門家を上手に使うスキルも必要です。

いざというとき使える伝家の宝刀・ウルトラCを持っている

外部弁護士は助言が採用されなくても傍観できるけれど*3、法務は「事業部は危ない地雷を踏みに行った(or踏んでしまった)なー」と傍観することはできません。
担当者が大きくやらかしそうなら上司・部門長あるいは他部署、それでもダメなら社長・役員を動かす、そのツールとして外部専門家の意見…と、切れるカードをたくさん持っていると強い法務なんだと思います。会社を守るために必要なら、規制当局だって使うかも。

カードの使い方が上手くなると、社内は盲目的に法務に従いそうでこれまた危険ですが。

なんか噛み合わない…

もしかすると「専門性を高めよう」とは、「自社のコアな事業領域に関する法令の専門性を高めよう」ということかも?とも思ったのですが、必要十分かはさておき、それはどの法務パーソン・法務組織も一生懸命やっているはず。。

ただのひがみかもしれませんが、どうも話が噛み合わなくて、大企業の法務部門の話を聞くのは悲しくなるからやめようかと思ってしまいます。ベンチャー企業もシード期からしっかり弁護士がつき、早い段階で法務が意思決定に参画する仕組みができあがっていることが多く、これまたあまり参考にならない。

結果、同じくらいの歴史と規模の会社の話が役に立ちますが、「ですよねー」などと傷の舐め合いになることには要注意です。

*1:会社によって違うでしょうが、うちの場合の典型は社外役員です。。

*2:「BIG5に残る弁護士は弁護士としては凡人」と語る方もいらっしゃるし、実際、スタッフからもクライアントからも信頼の厚い弁護士がブティック系事務所として独立されるケースは枚挙にいとまがないです。

*3:公益通報もできませんよね…?