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大阪で働く法務パーソンのはなし

子会社の不正・懲戒処分に親会社として関与できること

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子会社で不正があった場合、親会社としては何ができ、あるいはすべきなのでしょうか。

親会社の子会社管理義務の法的根拠

親会社に「子会社を管理監督する義務」があることは、いまや常識的になっていますが、法律で「子会社を管理しなければならない」とわかりやすく定められているわけではありません。
実際、少し前までは、人間同様に親と子は別人格であり、親会社取締役が子会社不祥事の責任を問われることはかなり限定的だったかと思います。

しかし現在は、子会社株式は親会社の重要な資産であり、価値を維持するために必要な措置を講じることは、親会社取締役の責務だと考えられるようになっています。会社法でも、子会社の以下の体制について親会社の内部統制システムとして整備することが求められています(会社法施行規則100条1項5号イ乃至ニ)

  • 取締役等の職務の執行に係る事項の親会社への報告に関する体制
  • 損失の危険の管理に関する規定その他の体制
  • 取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
  • 取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制

親会社が不正調査等に関与すべきか?

では、子会社で不正が起きてしまった場合、親会社取締役にはどんな具体的な義務があるのでしょうか。

BLJ2019年11月号の西村あさひの野澤先生の記事では、親会社取締役は、子会社の規模等によって、不正の調査義務と是正義務、さらには子会社取締役への責任追及義務を負う場合があると指摘されています*1。子会社株式は親会社にとって重要な資産なのだから、その毀損や毀損の可能性を知ったなら、適切な保全・回復措置を取れというのは合理的かなと思います。
現実問題として、現在の企業集団は、迅速な意思決定や効率的な組織運営を目指して事業別・機能別に子会社が量産される傾向にあり、監査部門を置かない子会社も多いので、なおのこと親会社の関与が必要でしょう。子会社のお財布では、必要な是正措置がとれない可能性もあるでしょうし。少なくとも、当社グループではそうです。

懲戒処分にどこまで関与できるか

以上のような理由で不正の調査や是正に親会社が関与することが親会社取締役の義務だとして、懲戒処分についてはどうでしょうか。

そもそも懲戒処分とは、会社が従業員に対して行う制裁なので、懲戒処分に株主である親会社が関与する合理的な理由はなさそうです。相談があれば応じたり、内部統制システムの運用状況や是正措置の確認として、懲戒処分を行った事実やその内容の報告を受ける程度が適切に思われます。
J-SOXの全社統制評価のため、グループの懲戒処分を確認している親会社は多いでしょうが、自ら懲罰委員会を主催する会社はなさそう。

役員への「懲戒処分」?

もし、不正が組織ぐるみとか、長年蓄積された風土に起因するものだった場合、あるいは影響の大きな事案だった場合、実行者である従業員にだけ懲戒処分を課して役員は無傷、というわけにはいきません。役員にもお灸を据える必要があります。

しかし、繰り返しになりますが、懲戒処分は従業員に対して行われる制裁なので、役員への「懲戒処分」というのは観念ができない…

結論としては、役員の責任の問い方は、その首しかなさそうです。親会社が取れる手段は「解任」のみ。現実には、自ら辞任を申し出たり、報酬を自主返上したりして責任を取られる役員が多いと思いますが。

子会社役員には制裁でなくモニタリングを

親会社では、子会社役員も従業員という感覚があって(実際、自社従業員を出向させることが珍しくない)、子会社で不祥事が起きれば監督不行届責任を問いたくなってしまいます。
しかし、やはり役員として選任した以上、解任するほどの重大事案でないときは、制裁ではなく、必要な是正措置をとらせ、しかるべき内部統制システムを構築・運用させることが適切でしょう。

 

子会社で起きた不正の一連の対応を観察し、処分の妥当性を検証する中で、そんなことを考えていました。

*1:野澤大和「親会社取締役の子会社管理義務」BUSINESS LAW JOURNAL2019年11月号p.44