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大阪で働く法務パーソンのはなし

EDIや請求書発行システムは契約の代わりになる?

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BtoBでは、日常の受発注や請求書のやりとりをシステム上で行うことがあります。ある部署の人から、「このシステムを契約書代わりに使ってもよいか」と質問を受けました。

日常的な取引=取引基本契約+受発注(メール・FAX・EDI)

日常的に取引がある企業とは、支払条件などの共通ルールについては取引基本契約を締結し、個々の取引(受発注)では契約書の作成を省略するのが一般的です。代わって、メールやFAXで受発注書をやりとりしたり、さらに進んでEDI(電子データ交換)を使ったりします。

そうすると、「契約とは契約書のこと」という思い込みが生まれるのか、「受発注も契約だ」と説明してもピンとこない社員が結構います(過去、初級管理職研修でつまずきました…)。

誰が操作したかわからなくても問題にならない

「受発注も契約だ」がピンとこない理由は、受発注のプロセスにありそうです。

というのも、発注書には、よくて社判がついている程度で、担当者印しかないものや、そもそも押印(や印影画像)がないものも珍しくありません。また、EDIも、アカウントは企業単位で発行されるのが一般的で、誰が操作したかの立証は困難なことが多いのではないでしょうか。
そんなわけで、担当者にとって受発注とは「作業」であり、まさか自分が(会社に代わって)契約を締結しているとは想像できないのだと推測します。

私たち法務も「契約は、締結権限のある方と締結してくださいね」とよく念押しするわりには、個別契約の成立に厳格なルールは求めていません。取引基本契約でも、「発注書を送付する」「所定システム上で行う」程度の記載しかしないことがほとんどです。

そして、具体的なルールを定めていなくても、「無権限者が発注/受注したので、無効・取消しさせろ」などと言われることもありません。万一そんなことを言われても、取引の安全が勝ちそうです。

「だったら、他の契約もシステム上のやりとりでよくない?」

前フリが長くなってしまいましたが、そんな習慣を理解してかどうか、冒頭のような質問が寄せられました。代替を検討しているのは、固有名詞をあげてしまうとラクスさんの楽楽明細で、担当者は以下のような流れを考えていました(念のためですが、楽楽明細はこの方法以外で請求書を送付することも可能です)。

  • 取引先ごとにアカウントを発行する
  • 合意事項をまとめたPDFをシステム上で取引先に送付する
  • 取引先は、システム上で内容を確認し(ダウンロードも可能)、同意する場合には「承認」をクリックする

これだけ聞くと、「いやいや、当社の誰が合意事項を作ったかもわからないし、先方の誰が承認したかもわからないのに、そんなもので会社が縛られては困るでしょう?そんな代替、認められません!」と言いたくなります。

でも担当者からすれば、「なぜ受発注や請求書はOKで、他はダメなの?」という話で、こちらもちょっと説明に苦慮します…

解決策はやはり基本契約

結局、「わかった。やってもいいけど、そのシステムを使ったやりとりは、会社の権限ある人がやったものとみなす旨の合意書を締結してください」という回答をして、合意書面のサンプルを作って渡しました。

ただ、この方法をとれば何でもそのシステム上でできてしまうことになり、無権代理を量産しかねないな…と懸念しています。必要最小限の範囲で切ることが重要でしょう。

電子契約と併存していく?

以前、電子契約を導入された大企業グループの法務担当役員の方が、こんなお話を聞かせてくださいました。

「これまでメールで受発注をしていたのに、電子契約を導入した途端、『受発注書も電子契約を利用しないといけないのでしょうか?』という質問があって困った。いらないし、費用がかさむからやめてくれって話ですよ」

私も一従業員なら同じ疑問を持ったかもしれませんし、「どういうときに電子契約で締結しないといけなくて、どういうときはシステムで済ませていいの?」と聞かれるとうまく答えられる自信はありません。。
自社では電子契約が全面導入されていないからとはいえ、上記の「システムを利用するための合意書」は書面で締結するようにアドバイスしてしまったし…仮に「電子契約でもいい?」と聞かれたら何と答えればよいでしょうか。「ご本人が電子契約に電子署名してくれるならOK」かしら?

しばらくは、

  • そういうシステムが利用できる信頼関係のできた相手とは、何でもシステム上で合意してOK
  • いやいや、一定の重要な契約は、電子契約か書面によるべき

との間で揺れ動きそうです。で、また電子契約の導入が遅れたりして…