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大阪で働く法務パーソンのはなし

積水ハウスと3月決算上場会社の総会動向

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今日は、積水ハウスさんの定時株主総会です。
現役役員を含む株主提案×感染症対策×招集通知発送後の会場変更×開催延期の仮処分対応と、中の方の心中察してあまりありますが、不謹慎ながら「修羅場」は法務を鍛えるので、すごい経験をなさっているなと思います。この先、こんなに重なることは一生ないかも。

今年の積水ハウスの定時株主総会

積水ハウスさんに今年何が起きているか。時系列で書くとこうなります。(リンク先は、いずれも積水ハウスさんのリリースです。)

2月14日 現役取締役らによる株主提案(株主側の記者会見は2/17)
3月5日  株主提案に対する取締役会意見の開示
4月1日  招集通知開示(総会会場は、本社近くのホテル)
4月7日  感染防止対応に関するリリース
4月8日  大阪府に緊急事態宣言
4月10日 感染防止対応に関するリリース②
4月11日 ISS賛否推奨レポートに対する意見開示
4月15日 総会会場及び開始時刻変更のリリース
     (ホテルから本社が入るビルへ)
4月16日 現役取締役(株主提案者)が総会開催禁止の仮処分申立て
4月21日 仮処分申立ての一部取下げ
4月22日 仮処分申立ての却下決定

株主提案の内容は、取締役選任議案であり、現経営陣の総替えを提案するものです。これに対し、ISSは、原則的には会社提案を支持するものの、現代表取締役の2名再任については反対を推奨し、代わりに株主提案の社外役員候補2名について賛成を推奨しているとのこと。プロキシーファイトが展開されているそうですが、果たしてどうなるでしょうか。

招集通知発送後の会場変更は厳しい・・・

株主提案は珍しいものではなくなってきていますが、招集通知発送後の会場変更は前代未聞クラスの異常事態です。
今回の会場変更については、緊急事態宣言とそれに伴う休業要請を受けて、ホテルが使用を断ってきたそう。すると、会場変更に関してはほとんど検討時間がなく窮地に陥ったはずですが、唯一の救いは、予定会場の隣に自社所有のビルがあったことだと思います。
緊急事態宣言下で不特定多数が集まる集会の開催を受け入れてくれる会場は、なかなかないでしょう。当初予定のホテルは、1年前からの予約だったものを断っているくらいですし。会場は相当狭くなるそうですが、自社所有のビルがあって本当によかったですね。

さらに、隣接ビルで会場を確保できたというのもよかったと思います。
招集通知を発送してしまっているし、総会まで1週間しかないので、会場変更のお知らせを刷る時間があるか、あったとして書面を送って事前に株主に届くかどうか、届いても株主の目に留まるかどうかといったことが保証できません。誤ってホテルに来てしまっても、隣のビルに案内することができれば事なきを得られます。開始時刻を30分後ろ倒しにされたのも、間違ってホテルに来た株主を誘導するための時間を確保されたものと推測します。

本当に、隣にビルがあってよかった。これが我が社なら、代替会場を見つけることはできなかったと思います。「当社の大会議室でやりたい」といっても、入居しているビルが許してくれなかったでしょう。

仮処分申立ての理由は法令違反?

ここまでで十分すぎるほど未曾有の事態ですが、さらに株主が追い討ちをかけ、総会の1週間前に開催禁止の仮処分を大阪地裁に申し立てました。会社側のリリースによれば、申立ての理由は、総会の会場や開始時刻の変更で招集手続に法令違反があるからなどとのことです。

結果は、審尋の後、一部の申立ては申立人により取り下げられ、残る申立ては前日に却下決定が下りています。予想どおりの結果とはいえ、関係者はハラハラされたでしょうね。そんな中で前日リハーサルなどをすると思ったらぞっとします。

株主総会を延期できない理由ー決算期後に売却した株主が怒る?

法務省は過日、新型コロナウイルスの影響を考えれば、定時株主総会の延期は許容されるという趣旨の見解を出しました。所有と経営が一致している企業であればそれも可能ですが、上場企業では直前に延期などできません。何より、決算期後に権利確定して売却した元株主はじめ、期末配当を期待する株主が怒るでしょう。会社によっては、期末配当を取締役会で決議できるようにすることも可能ですが、当社も、積水ハウスさんもそうはしていないので、期末配当のためにも決算期後3か月以内に定時株主総会を開催せねばなりません。

6月総会にも影響は残りそう

仮に緊急事態宣言がGW明けに解除されたとしても、6月総会の企業さんもかなりの感染症対策を講じる必要があろうかと思います。

先日公表された東証の調査(速報版)によれば、7月以降への延期を検討されている企業も一定数あるそうです。また、予定どおりするとしても、バーチャル参加型のみならず、バーチャル出席型の総会を検討されている企業もわずかながらあるとのことで期待しています(質問をどうさばくおつもりなのだろう…)。
そのほか、以下のような対策を講じることを考えている企業が多いようです(かっこ内は検討している企業の割合)。

  • 出席株主に対するマスク着用の要請、役職員のマスク着用(53.8%)
  • 会場における消毒液の設置(49.7%)
  • 座席間隔の確保、レイアウトの工夫(31.2%)
  • 書面やWebによる慈善の議決権行使の推奨(28.1%)
  • 所要時間の短縮(19.1%)
  • 出席株主の体調確認(19.1%)

など。ちなみに、当社は上記6項目はすべて実施したほか、株主との接触があるスタッフには手袋を着用させたり、取引先には事前行使をお願いしたり、スタッフを大幅に減らしたり…といった対応をしました。