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大阪で働く法務パーソンのはなし

熟達目標志向を高める

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事実上、今週で仕事納めのムードなので、今年の総括…するような力はないので、法務の仕事からは少し離れた管理職目線の話を。

熟達目標志向と遂行目標志向

先日読んだ本。まことしやかに信じられているバイアスを実証的に正してくれます。

この本で、人がどのような態度で課題に取り組むのかに着目した「達成目標理論」が紹介されていて、2つの志向が挙げられていました。それが「熟達目標志向」と「遂行目標志向」です。それぞれ、次のように説明されています。

 

熟達目標志向とは、自分の能力を伸ばしたい、何か新しいことを身に付けたいという志向性を指し、熟達目標志向の高い人は努力に対して積極的な姿勢を取る。一方、遂行目標志向とは自分の能力に対して肯定的な評価を求めたい、能力に対する否定的な評価を避けたいという志向性を意味する。遂行目標志向の高い人は、努力したからと言って能力が高まるわけではないと考えるため、努力に対して消極的な態度が見られる。(p.125)

こんなふうに書かれた上で自分で言うのもなんですが、私は、熟達目標志向がそこそこ高いのかなと思います。努力しているという感覚はないけれど、関心のあることについてもっと知りたい、もっと上手くできるようになりたいという思いを源泉に物事に取り組んでいる気がします(仕事に関しては、「ならねば」という強迫観念も混じっているが…)。他方、興味のないことは…

私のことはどうでもいいのですが、本によれば、熟達目標志向の高い人は、多くの場合能力が高く、なおかつこの志向はイノベーター人材に備わっているものらしく、希少人材なので何としても入社させましょうと書いてありました。好きでやっているから伸びるという、当たり前な帰結ですね。

遂行接近目標と遂行回避目標

遂行目標にはさらに「遂行接近目標」と「遂行回避目標」があるといいます。

 

遂行接近目標とは自分の能力について肯定的に評価されることを求める志向性、遂行回避目標とは自分の能力について否定的に評価されることを避ける志向性だ。遂行回避目標志向の高い人は回避型行動を取り、遂行接近目標志向の高い人は達成型行動を取る。(p.138)

肯定的評価を目指す遂行接近目標志向の人は、課題解決に前向きですが、遂行回避目標志向の人は、低く評価されたくないから課題を放置したり隠したりして前に進めないという。さらに悪いことに、遂行回避目標志向の高い人は、相対評価の下では悪循環(やらない↔︎できない)に陥り下層に固定化してしまうそうです。

各志向と援助要請

熟達目標志向の高い人は、正しいやり方が知りたいので、周囲に援助やフィードバックを求めるのに対し、遂行目標志向の高い人は、正解が何かに興味はなく(評価が欲しいだけだから)、周囲に助けを求めようとしないといいます。

もし、仕事を溜め込んだ挙句に「やっぱりできない」という部下がいたら、自分の能力不足が露呈することを恐れて援助要請を脅威に感じているのかもしれないとのこと。

法務に求められる志向

では、法務パーソンに求められる志向はどれか。いうまでもなく熟達目標志向です。

本を読んでものすごく腹落ちしたのは、熟達目標志向が高い人は、援助を求めるし(結果的に)能力が高いということ。うちのメンバーにも、「質問攻め」といってもいいくらいよく質問する若手がいるのですが、そのメンバーの成長曲線の傾きは確かに急勾配で驚いています。
「優秀だから優秀」なのではなくて、熟達目標志向が高いから、門外漢で配属されたのにメキメキと力を付けていくのですね。質問の質が違うんです。私の修正案に対し、「なぜそうなるのか?」「こういう思考回路でそういう結論に達したのか?」と、ひとつの解そのものよりもそこに至る過程を知りたがる。

かたや、なかなか援助要請ができないメンバーもいます。これは回避型行動の結果なのか…?とこちらも端緒を得た気分。「それが評価が向上しない理由のひとつだよ」と言いたいところですが、そんなことを伝えても意味がないと、伝える前に気づけてよかったです。伸び悩むメンバーは、「見てない」「気づけてない」とよく思うのですが、それは興味がないからなんだという私の仮説は、どうやら正しいようです。
しかし、できる→面白い→もっとやってみたい→できるが好循環のサイクルなので、小さな「できる」を作らないと、興味もわかないんですよね…ということで、ひとえに私の力不足であります。

熟達目標志向を高めるマジックワード

本によれば、特定の志向は、比較的容易に高められることが実験研究で明らかになっているといいます。ならば、熟達目標志向を高めたいところ。

そのマジックワードは「身に付ける」だそうです。伸び悩むメンバーには、意識して使おう。