Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

【本】リーガルオペレーション革命

f:id:itotanu:20210328234208j:plain早いもので、今日からまた新入社員がやってきます。去年は急な環境の変化で、新入社員研修が急遽すべてオンラインになり、慣れないZOOMやTeamsを使ってなんとかこなしましたが、一年の間にZOOMもTeamsも手放せないツールになりました。
そして、私たち法務の世界では、脱ハンコの体制が一気に整備されました。法務の置かれる環境がこんなに急に変わるのを目の当たりにしたのは初めてです。

とはいえ、私の足元の業務が大きく変わったかといえばそうでもありません。世の中に置いていかれないように、今年は何か導入するぞ!という気持ちで、種々のリーガルテックを紹介した次の書籍を読みました。

ベンダーが(有力なものを含めて)すべて紹介されているわけではないし、賞味期限の短い記述も多いとは思いますが、その点を割り引いても参考になる点がいくつもありました。

業務の歴史から

著者は、電子契約導入ガイドブックの執筆にも携わったり、リーガルテックに関する記事やイベントなどでお見かけしたりする機会が多い方です。多分、事業会社に在籍する現役法務パーソンで、もっともリーガルテックに明るい方のお一人だと思います。

この本は、「オフィスにおける事務機器の変遷」から始まります。契約書を手書きやタイピングしていた頃から、ワープロが誕生し、ひとり1台PCが行き渡るまでのお話が最初にあります。

私よりも少し上の世代の方だと、これだけで何時間も酒の肴にできそうな話なんだと思います。

リーガルオペレーションを考える

サブタイトルに「リーガルテック・導入ガイドライン」とあるくらいなので、リーガルテックの話が半分を占めるのですが、あくまで主題は「リーガルオペレーション革命」であり、法務業務について色々と書いてくださっています。そのまま流用するかはさておき、具体的なご紹介があるのが参考になります。たとえば次のようなものです。

  • 契約審査業務から除外する契約書類型
  • 契約審査体制(承認・確認フロー)
  • 契約書の書式設定のルール(表記コード)
  • 難易度判定モデル
  • 中長期戦略
  • 能力評価基準

私は常々、契約書や相談対応の難易度をポイント制にして、何ポイントの仕事を(どれだけの時間で)したのか測れるようになったらいいなと思っているのですが、その方法が紹介されていてすごく勉強になりました。

言語、ドラフトのパターン、ボリューム、関連部門への確認の有無、リーガルリサーチの有無、ボーナスポイントの有無、難易度ランクの8項目で評価してポイントをつけるというもの。受付記録時にこれも合わせて記録し、四半期ごとくらいに計算すると、かなり仕事が見える化できるかも…と思いました。

紹介記事を寄せたリーガルテックは11

本の後半は、こんな業務にはこんなリーガルテックがある、という紹介が中心です。よくこんなに試せるものだ…と感嘆してしまいます。次の11のリーガルテックがサービス紹介記事を寄せています(書籍での登場順)。

ご覧のとおり、電子契約サービスはGMOサインだけで、クラウドサインやドキュサインといった他の有力なサービスは詳細が載っていないし、契約審査でもLAWGUEは取り上げられていないので、その点は割り引いて読む必要があります。つまり、ここには載ってない強力なリーガルテックが他にまだあるということです。そしてそれは、これからもどんどん増えていくはず。

知らなかったリーガルテックも知らぬ間にパワーアップしていたリーガルテックも

自分ではそれなりにリーガルテックを追っている自負があったのですが、本を読んで初めて知ったリーガルテックや、知っていたけれど知らない進化を遂げているものがあって、とても勉強になりました。

知らなかったのは、LegalscapeとbyLegalというサービスです。

Legalscapeは、その名のとおり、法務の情報を景色のように見渡すことを目指していて、ある条文を検索すると、その下位法令やパブコメ、国会議事録、関連書籍などの情報までつながるというサービスとのこと。東大発のベンチャーが運営しているそうです。今春にリリース予定だそうで、もう少し詳しく知りたい。

byLegalは、ひとことで言えば、弁護士ドットコムの「すごい」版。実際、弁護士ドットコム(株)出身の方が起業されたそうです。何が「すごい」かというと、登録弁護士が審査制になっていて、超有名事務所の一流弁護士や外国法弁護士が名前を連ねていること。サイトではどのような弁護士が登録されているかわからないけれど、書籍では一部が紹介されていて、ビッグ5のほか国内の有名事務所のパートナークラスや、Allen&Overy、Clifford Chance、Kim&Chang、Li&Leeなど、国際経験の少ない私でも知ってるという事務所の弁護士の名前がずらり。こういった方達からの助言を無料で得ることができるなんて、「すごい」としか言いようがありません。著者は、こういったサービスによって、「顧問弁護士」という制度がなくなるのでは?とも述べていました。

現時点のリーガルテックの把握とオペレーションの見直しに参考になる本

繰り返しですが、取り上げられているリーガルテックサービスは限りがあるので、「これがすべて」という頭で読むのは危険ですが、法務パーソンが「こんなことができるリーガルテックがすでに市場にある」ということを知るにはとても有益です。

オペレーションをどう改善するか、これからどんなリーガルテックが生まれそうか、というアイデアを得るにも勉強になる本でした。若手よりもベテランや管理職が読んで改善に生かせればいいのですが、若い方もお読みになって上司に教えてあげるといいと思います。