ビジネス法務2022年8月号では、「25社の経験に学ぶ 私が悩んだ契約書業務と解決プロセス」という特集が組まれています。
外資系を含む超大手企業からベンチャー企業まで、とにかく数で圧倒されました。
契約書業務の悩み
今現在の私の契約書業務に関する悩みといえば、次のようなもの。
- 重要性の低い依頼も多い
- 難易度中〜高の依頼数と対応できるリソースが釣り合っていない
- 案件の記録に工数がかかる
今回の特集で1と2を直接取り上げるものはなかったのですが、
- 1については、AIによるチェックサービスを法務外にも開放する
- 2については、当座は外注する
といったことが解のひとつになるでしょうか。実際、当社のグループ会社には、営業部門にAIによるチェックサービスのアカウントを開放したり、契約書チェックを外注すなわち当社に依頼しているところもあります*1。
なお、今回の特集では、契約書チェックでのリーガルテックの利用や契約業務の外注について寄稿してくださっている企業もありました。
3つ目の悩みについては、特集記事でニトリHDさんがひとつの解を示してくださっています。ツールは違うけれど、やっていること、やろうとしていることがほぼ同じようです。
ニトリHDの「ナレッジマネジメントの仕組みを用いた契約法務人材の育成」
相談はFormsで受付→Sharepoint上で自動一元管理・蓄積
ニトリHDさんでは、社内の相談依頼をFormsで受け付けて、回答はSharepoint上で行い、管理されているとのことです。PowerAutomateを使っているそうなので、これでワークフロー化(進捗の見える化)をなさっているのだと思われます。
Microsoft365をフル活用されており、これには次のようなメリットがあると想像します。
- 事実上、メールアドレスを持っている役職員全員がシームレスに使用でき、新たなシステムを導入する必要がない
- 最初のセットアップは外注するとしても、その後は社内でカスタムできる
- 人事情報の更新も1回きりでOK
- Sharepointを使うことで、情報のストックが自動化できる(アクセス権もそこそこ管理できる)
「情報のストックが自動化できる」というのがとても魅力的です。私もこれを早く実現したい。
当社では相談はメールor口頭で受付→kintone&オンプレサーバに手動で保存
では、当社はどうやっているかというと、依頼はメールや電話などで受け付けます。その後、法務用のオンプレサーバに依頼ごとにフォルダを作成し、依頼メールや参考資料、担当者のリサーチ内容(弁護士相談のやりとり含む。)や回答など、案件にかかわる記録のすべてをそのオンプレサーバに保存します。全部手動で…
過去の記録が超重要資産である法務にとって、オンプレサーバの検索性はないに等しいので*2、私のチームでは、台帳代わりにkintoneで受付記録をつけています。こちらも1件1件手入力で、案件が立て込んでいると「なんでこんなことをしないといけないのか」という気になってしまうのですが、将来の自分やメンバーのためと思い直し、せっせと入力しています。
全社員とのやりとりをkintone上で完結させ、オンプレサーバへの保存を廃止して、情報のストックを自動化させることが当面の目標ですが、ここがなかなか思うように進みません…
台帳をつけるだけならExcelでもよいのでは?というご意見もあると思いますが、kintoneを使うことで検索性が上がるのは当然、案件ごとに依頼部門・担当者・ボリューム・初回回答までの日数などをあわせて記録すれば、法務業務の定量測定に活かせます。
機密の案件はどうする?
これはニトリHDさんの記事だけではないのですが、特集を読んでいて少し引っかかったのは、「機密の案件はどうするの?」問題です。
「依頼者は秘密にして欲しがっているけれど、チーム内の共有は問題ない」という相談であれば、他の依頼と同じ扱いで構いませんが、M&Aのようなインサイダー情報を孕むものや、不正調査のような人にまつわるケースは、どのように情報を管理されているのだろう?と不思議に思いました。AIチェックにかければ履歴が残りそうだし、通常の依頼ルートで受け付けることもできないし…当社では、今はメール&オンプレサーバでやりくりしていますが、この先どうしたものかと思案中です。
課題や正解は変わる
他の記事もそれぞれ示唆があって興味深く拝読しました。各社、わずか見開き2ページの分量で、誤解を与えかねないかもしれないのに、「今」の工夫等を開陳してくださってありがたい限りです。特に、利用しているリーガルテックを具体的に紹介してくださった企業のお話は大いに参考になりました。
記事の中には、会社のステージや環境から「これはうちではできない」「この企業はこの先こういう壁に当たりそう」と感じるものもありました。
そうやってリフレクションしながら今の自社に必要なことを考え実行するのが大切であって、この特集の狙いもそこにあるはずなので、若手の法務パーソンは刺激の受け方を誤らないといいなと思います。
課題も正解も、会社の置かれている状況で変わるのだから。