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大阪で働く法務パーソンのはなし

相談のハードルを下げるべきか上げるべきか

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メンバーと昨年を振り返ったところ、特に後半は目先の仕事をこなすのが精一杯で、十分な時間をとって取り組むべき仕事ができなかった…という感想に終始しました。

あらゆるものに十分な時間はとれませんが、「腰を据えてできた」と満足できる、重要度:高・緊急度:低の仕事を、今年は何か成し遂げたいです。

そのためにすべきこと、それは目の前の仕事=受注を減らすことだと考えています。

法務のジレンマ:相談のハードルを下げるべきか上げるべきか

法務の究極のミッションは、「会社と従業員を守る」ことだと私は捉えています。そのために、法的リスクを識別・評価して対応を提案したり、社員のリテラシーをあげる取り組みをしたりするのだと。

重大なリスクを見落とさないため、必要な手を確実に打つためには、社員との信頼関係が重要です。そこで、「何でも気軽に相談してくださいね」と法務への敷居を下げるアプローチをとることが多いと思います。勧める先人も多いですし。人知れず法務部門が発足し、認知度が低かった当社も、この方法をとってきました。

しかし、これを続けていると、

  • とりあえず法務を通しておけばいい
  • 法務から言質をとってやろう
  • 面倒は法務に任せればいい

となるのが必然です。私が他部署にいれば、そうするでしょう。
法務の存在が知られ、契約やコンプライアンスリスクの認知度が上がる=リテラシーが上がる(でも成熟には至らない)と、避けては通れない時期なのでしょうが。

現在、「そんなの法務に相談しなくてもいいだろう」という相談が急増しています。捌ける臨界点に到達しそうな勢いで、私たちが「斧を研ぐ」時間を確保できなくなっています。

これは一大事で、このままだとサービスレベルが落ちてしまうし、何より仕事がつまらないものになってしまいます。
そろそろ、相談のハードルを上げるほうに舵を切る時かもしれません。どんな相談にも応じたいですけどね…

「こんなときは法務を通さなくてOK」リストを

そうはいっても、「雑魚い相談はお断り」なんて言おうものならハレーションがすごそうですし、「なんでも法務に」という思考停止気味のところにメスを入れることから始めなければなりません。
そこでまずは、親しい(かつ依頼が多い)部署に「こういうのは法務を通さなくて大丈夫ですよ〜」というリストを作ろうと考えています。基準を定める企業も多いと聞きますし。

リストは、たとえばこんな感じでしょうか。要は、リスクが小さいか受忍可能なもの。あるいは、法務で見てもどうしようもないもの。

  • 毎年同じ内容の契約書(日付や金額を変えるだけのもの)
  • 一度見た契約書の再確認
  • 金額が少額のもの
  • 修正不能なもの

最後の「修正不能なもの」は、Webサービス利用規約が好例です。「内容は変えられないけどリスクだけ把握したいから、とりあえず見て」みたいな依頼が結構多いのですが、「自分で読め!(読んで理解できないなら運営者に聞いて)」と言いたい。

いずれは、「これ以外は法務では見ません」とできればよいのでしょうが、果たして何年かかるでしょう。それに、そういう法務は「いい」法務なのか…

十分な情報を得る仕組みも

相談時、

  • 変更契約の確認依頼なのに、原契約がついていない
  • 契約トラブルの相談なのに契約書がついていない
  • 添付ファイルにPWがついているのにPWの記載がない
  • 事実関係がわからない

といった理由で、手を付ける前に連絡しなければならないこともよくあります。着手後に詳細確認のためにまた連絡することになり、お互いにとってよくありません。

依頼時に十分な情報提供をしてもらえるよう、ここは仕組みで工夫していきたいのですが、なかなか苦戦中です…

将来は外注?

先日読んだ本では、付加価値の低い仕事は外注することを提案していました。

当社も、AIを活用した契約チェックサービスを使ってみてもよいかな?と思った時期があったのですが、かゆいところに手が届かず、導入効果がしれているのが目に見えて見送っています。
もちろん外注できればありがたいですが、当社の場合はまだまだマンパワー対応が必要で、「重要度の低い契約専門の外注」なんて、どなたが受けてくださるでしょうか。。

企業の契約書チェックは相当程度の需要がありそうですが、企業が期待する額と事業として成立する額が合わなそう。「外注するなら弁護士じゃないと」とかいう経営陣もいそうですし。