契約書チェックをした後しばらくして、「先方からコメントが返ってきたので見てほしい」と再チェックを頼まれることがあります。
そして稀にですが、「なんで?」と首をかしげたくなる謎の修正やコメントに遭遇することもありますよね。
謎パターン①自社雛形の修正
そもそも先方が自社の雛形を提示してこられたのに、当社のレビュー後に当社が修正依頼していない部分について修正提案をされるパターンです。おそらく、先方で以下のようなやりとりがあったと想像されます。イタリックは心の声です。
担当:法務の負担を減らすために雛形を使わなきゃ。
適切な雛形は多分これだな。
(と、最新版かわからないものを当社に送りレビュー結果を受け取る)
担当:(先方法務へ)今度●●社とこんな契約を締結します。
自社雛形を送って先方チェックが返ってきたのでチェックお願いします!
法務:(その契約ならこの雛形じゃない!!or 古いバージョン使ってる!!直さないと…)
自社に有利になるように修正したので、交渉よろしくお願いします。(説明大変だけど頑張ってー)
担当:おぉ、ありがとうございます!
(当社へ)法務チェックが返ってきたので再度確認お願いします!
法務:(あぁ、説明すっ飛ばして…先方の法務の皆さん、しのびない…)
全然他人事じゃないです。恥ずかしながら、当社でもやってます。
雛形のメンテナンスが不十分とか、担当者がちゃんと使えるように掲示できていないとか、理由はいくつか考えられますが、ちょっと恥ずかしい。
当社でこういうことが起きた場合、重要な契約でなければ目をつぶっています。見逃せないときは、「今回の取引ではこうさせてください」と、取引の特殊性をアピールし、修正理由をごまかしながら修正をお願いしています。
大幅な修正が必要だったら、正直に謝って雛形を正しいものに差し替えなければならないでしょうね。先方の意図が反映されるように極力修正したうえで、改めて確認をお願いすることになるんだと思います。
幸い、他社に対してそのような経験はまだありませんが、社内だと容赦なしに修正することはよくあります。忙しいのに雛形を探し当ててアレンジしたであろう担当者には申し訳ない気持ちですが。
謎パターン②コメントが理解できない(作戦?)
違うお取引先で最近立て続けに起きたのが、先方のコメントが「わざと?」と思えるほど難解なもの。
たとえばこのようなコメントがありました。
- COC条項のトリガーから合併と会社分割が削除され、その理由が
「合併と会社分割は、法令に従い自動的に承継されるので事前承諾は不要です。」
先方の雛形だったので、パターン①でもありました。しかも、解除権は先方しか行使しない。。 - 当社が売主の契約で瑕疵担保責任の修正を依頼したところ、
「瑕疵には売主の帰責性は要求されないから変更できません。」
いずれもかなり大手企業なので、話が通じないように見せかけて、譲る気なしの姿勢を見せつける作戦だと理解することにしました。
法務たる者ここで引き下がらず、正面から論破を試みたほうがいいのかもしれませんが、当社は「無駄な抵抗はしない」ポリシーで取り組んでいるので、極力ご意向に従っています。「受け入れられないなら取引やめたほうがいいと思う」と助言する場合も。だって、話が通じないのだもの…
謎修正・コメント撲滅のためにはダブルチェックを
そもそも私のチームでは、お取引先に対して取りつく島のないようなコメントをすることはないのですが、説明の合理性には注意していまして、必ずダブルチェックをします。場合によってはトリプルチェックもします(新人→新人トレーナー→私)。
しかし、他社さんのお話を聞いていると、契約書チェックは事実上一人でするというところも多いのですよね。私は、社会人になって以来、どの所属先でも最低1回、多ければ2回3回とチェックを受けてきたので考えられないのですが…
確かに、全件をマネージャーがチェックするとなると負担が大きいです。しかし、職務上の使命を考えたら削ってはいけないところだと思って頑張ってやっています。
そんなことをするとメンバーの責任感が薄れるのでは?というご意見もあるかもしれませんが、法務の仕事をしていて「上司が見てくれるからちょっとくらい手抜きしてもいい」と考える人はいないと思います。それに、私の場合は、そんな考えを持てないくらい隙があればつきますし、依頼者への対応も任せているので、手抜きなどとてもできません。
自分の分はどうする?
自社やメンバーに恥をかかせないため、ということもありますが、メンバーの仕事ぶりを正しく知るためにも、ダブルチェックは極力やったほうがいいと思います。それは、自分がレビューするものについても同じです。
しかし、職位が上がってくると、自分がレビューしなければならない契約とは、M&Aなど機密性が高いものになってきます。私の場合は、依頼者からは「機密で」と言われても、極力メンバーに任せています。メンバーをなめてくれるな、という気持ちです。笑
たまに、「やはりどうしてもまだメンバーに頼めない」というものもあります。NDAのような典型的なものであれば私限りで済ませますが(その代わり時間をあけて2回見る)、そうでなければ弁護士の力を借りるのが私のやり方です。気軽にお願いできる顧問弁護士がいてくれるのはありがたいことです。