Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

有名IT企業のDX担当に話を聞く

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先週の記事は、多くの方に共感いただいたようで大変うれしいのですが、ちょっと複雑な気持ちです。それだけ、そういう法務パーソンもいるということなので。
私たちも恥をかかぬよう精進します。いや、恥をかくくらいどうってことありませんが、担当者の築いた信頼を損ねないように。。

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さて、先日、とある著名なIT関連企業でDX推進を担当された方から、DXの極意を聞く機会がありました。結論としては、少なくとも電子契約の導入に関しては、エンジニアの意見だけで進めるのは、あまり良いアイデアとは言えなさそうです。やはり、法務の視点からの検討は外せません。

DXには段階がある

DXの定義は、生みの親とされるストルターマン教授のもの*1のほかにもいくつかあって、ビジネスの世界では、経済産業省IDC Japanの以下の定義を用いています。

 

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること 

DXが最終的に目指すべきは、DXにより事業上の競争優位を確立することですが、アナログあるいはちぐはぐなシステムを使っている企業では、いきなり競争優位を活用するDXを実現できません。そこでまずは、その土台を作るため、業務のDXから取り組みましょう。←今ココ という企業が多いのではないでしょうか。当社はそうです。

なぜ業務のDXは進まないのか

業務のDXを進めるタスクを与えられた私たちは、DXにより実現したいことを考えたり、そもそも現状を生んでいる本当の原因は何かを探りました。理想と現実を見極め、そのギャップを特定し、打ち手を考える、というやつです。

現在の不都合を生んでいる要因には、紙ベースで業務が進んでいる、データが一元管理されていないという、いかにもDXっぽい課題もあるのですが、ではそもそもなぜそんなことが起きているのか?を考えると、浮かんできた原因は

  • 業務改善が面倒くさい(やる価値がない)と思う人のほうが多い

これだけ見ると、当社は大丈夫か!?という感じですね。。

電子契約の導入にトライアルは認められるか

冒頭の、某有名IT企業でDXを推進した方に、電子契約の導入方法について意見を伺ったところ、意外にも慎重なもので、「とりあえずやってみる」には反対でらっしゃいました。その理由は明快で、「まず電子契約に移行できるかの法的な確認が必要だし、社外の方を巻き込むのに、『やっぱり紙に戻します』はできないでしょう?だから、サービス選定は慎重に」というものでした。

ここしばらく電子契約を勉強してきた身として、一理ありそうに見えてどうかな?と思う点は、

  • ほとんどの契約で電子契約が利用できる(法律が…とかいうのはズルい)
  • 電子契約サービスを乗り換える可能性はあっても、紙に戻る可能性はほぼないし、先方にとって乗り換えの影響は小さいのでは?

他方、同意するのは、

  • 「相手は誰か」をよく調べないと、適切なサービスを選べない
    (本当に電子契約が使える相手なのか?)
  • 当社においては、電子契約サービスの乗り換えはプラットフォームが変わるのでなかなか難しそう

最終的には、「エイヤと気合い」というお話もありました。大きな変化ってやはりそういうものですかね…あと、リーダーが大事とも。それをいっては、普通の会社ではDXは起きにくいのですが。

電子契約をひとつに絞るべきか

契約には相手があり、「●●サインしか使いません」ということはできないので、「ひとつ」は無理だと思います。グローバルならDocuSignの使用は避けられないでしょうし、国内契約については和製サービスを外せず、どんなに少なく見積もっても2つは必要なんだろうと思っています。
件の方も、統一しようとして使いにくくなってはいけないので、3〜4個ならアリでは?というようなことをおっしゃっていました。

複数のサービスを使うこと自体は構わないけれど、締結した電子ファイルをどこで保存するか、という問題がありますよね。そのへんはあまり聞けなかったけれど、文書管理システムを使うという発想はなさそうな感じでした。

ITの申し子みたいなところでもDXはまだまだ道半ば、というのがよくわかる時間でした。

*1:ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる