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大阪で働く法務パーソンのはなし

必要なのは電子契約か、違うものか

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「またか」と言われそうですが、電子契約導入プロジェクトは順調に迷走しています。
現場の話を聞いていると、「みんなが今すぐ欲しいのは電子契約ではないのでは?」とすら思えてくる…

他方で、世の中は電子契約の導入が進んでいて、「電子契約で締結したいと言われているのですがいいですか?」という問い合わせも増えています。

紙でも電子契約でもOKな後文が急増中

コロナ禍前だと1社くらいしかなかったと思うのですが、最近は紙でも電子契約でも対応可能な後文を持つ契約が急増しています。具体的には以下のような感じ。

 

本契約の成立を証するため、本書2通又は本電磁的記録を作成し、甲乙記名押印又は電子署名の上、各自本書1通又は本電磁的記録を保有するものとする。

この選択式の書き方はどうなんだろう?と思わなくもないのですが、どちらかしか作成しないところまで現場に責任を持ってもらう前提で可としています。すると、直すところはありません。しかし、契約チェック段階でこのままスルーしてしまうと

知らぬ間に電子契約を利用→将来「誰が締結したの?」or「契約書がない!」と騒ぎになる

という姿が目に浮かびます。

というのも、電子契約を正式導入していない当社では、電子契約のルールが整備できていないし、全体的なリテラシーもまだ低いためです。締結権限者ではなく担当者が電子署名してしまう可能性もあります。

「対応可能な電子契約サービスリスト」が必要

そこで、電子契約の可能性がある条文が含まれる場合には、「もし電子契約するなら事前に利用サービスを教えてください」とコメントしておき、連絡があれば、

①締結権限者が電子署名すること(社長契約での利用はNG)
②締結証明書やAudit trailなどを取得して一緒に保管すること

を指示しています(さらに、ひとまず紙の契約書の保管方法に寄せ、電子契約自体も紙に印刷して保管してもらっています。)。

このやりとりが増えてきているので、そろそろ有名どころの電子契約サービスをリスト化して、「ここのサービスはこういう条件で利用可」といったものを共有する必要があると感じています。その前に電子契約を正式導入したいのですが…

業務のボトルネックは締結前後が重症だった

そう、電子契約の導入です。当社のプロジェクトでは、現在の契約締結業務がどんなフローになっていて、どこがボトルネックになっているのかを整理したようです。

そして、発見された重度のボトルネックは、

  • 契約締結フローが煩雑(ゴールが遠い)
  • 必要な契約書を探すのに時間がかかる(期限管理できないことを含む)

といったものでした。問題の本質が「紙であること」に起因していないので、電子契約に置き換えたところで問題は解決しない。。このプロジェクトは、「ペーパーレス化」を錦の御旗にしていたのに。

当社に今必要なのは電子契約だと思っていたけれど、実は違うのか…よくありそうな話ではありますが。

電子契約サービスを探すはずが周辺サービスまで

そんなわけで、クラウドサイン・GMOサイン・DocuSignなどを比較検討するはずが、LegalForceキャビネやHolmes、さらにもっと文書管理に寄ったシステムまでが検討対象に入ってきています。

改正電子帳簿保存法が来年施行され、PDFの請求書を紙で保存できなくなるので*1、タイムスタンプ対応の文書管理システムが必要だという別の問題も絡んできて、焦点がぼやけてしまっている…

電子契約の導入にあたっては、締結した後の管理も大事なんですけどね。電子契約サービスを探すはずがレイヤーがバラバラ。

やっぱりStart with "WHY"

プロジェクトが迷走する(ように見える)ことは、悪いことではないと思います。課題解決は、発散と収束を繰り返すものです。でも迷走ばかりはしていられません。

こちら↓の記事でもプロマネでは「Whyが最も重要」とあり、改めてStart with ”WHY”を肝に銘じています。

リーガルテック導入に必要なプロジェクトマネジメントの基礎知識 - サインのリ・デザイン

私も別の業務効率化に取り組んでいるので、ことあるごとにWHYを出していこう。

*1:「保存できなくなる」というより「保存しなくてよくなる」ではないかと思うのですが、世間的には「保存できなくなる」と喧伝されていますね…