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大阪で働く法務パーソンのはなし

DDを受ける身になると

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標準的な法務パーソンとして会社生活を送っていると、デューデリジェンスをすることはあっても、される機会はなかなかありません。私は、これまで2回経験したのみですが、どちらもかなり大変でした。週末をあてないと終わらないほどに。

対象会社になると大変

法律事務所に勤めていた頃はDDが始まるととても忙しかったのですが、DDを依頼する立場になると、DD期間中は結構余裕があります。
VDRのアクセス権はもらうので、気になった資料があれば見てみたり、インタビューがあれば末席に置いてもらったりしながら、アドバイザーの分析を聞いて疑問や懸念をお尋ねすることもでき、非常に贅沢な気持ちになります。先生方の作業が想像できるから余計かもしれません。

他方、自社が対象会社となってDDを受けるとなると、とっても大変です。通常業務もあるし、自分たちがDDされていることも秘密裏に進めなければなりませんから。そこに、独立運営をしているような子会社も対象会社に入ってくると、もはや悲劇。年末年始にせっせと資料の準備をしたこともありました。

実は法務にはほとんど情報がない

DDは、よく言えばジャンルごとに、ありていに言えばアドバイザーごとに縦割りチームが組まれ、依頼資料のリストが作成されます。DDの趣旨を考えれば、当然法務チームの守備範囲は広くなり、膨大な資料提供を求めます。
定款をはじめとする社内規程、重要会議の議事録、重要な取引先や契約、重要な資産・負債、労務管理…などなど。最近は、産業廃棄物の処理プロセスやアスベスト使用状況といった環境関連の資料、内部監査報告や内部通報制度の利用状況なども具体的な資料の開示を求められるようになっています。

そして社内の上のほうから、「あちらの法務アドバイザーからの要請なので、法務で対応してください」と言われたりするのです。「弁護士からの要請だから法務が資料収集せよ」なんて、全く論理必然でない。。
法務があらゆる資料を持っているはずもなく、当社の場合、法務単独で用意できるのは、全体の1割程度かも。法務の独力でどれだけ準備できるかは、法務の力のパラメータかもしれません。

開示資料をすぐには準備できない

法務で対応できないものは、関係各所にお願いしなければなりません。自社内ならまだしも子会社に要請するのはハードルが高く、しかもコピーをとらせるのも悪いので、誰かが原本かコピーを取りに行くこともあります。

特に最近はVDRを使うのが当たり前で、紙書類はスキャンしなければなりませんし、個人情報保護のため、従業員や契約先関係者の氏名はマスキングするよう指示もあります。在宅勤務ではできませんし、限られた人数で作業をするには時間がかかります。

資料があればまだよくて、そんな完璧な会社ではないので、あるはずの資料がないということも珍しくありません。代表格は契約書です。
「どうしましょう?」とよく聞かれるのですが、「ないものはないのだから、しょうがないですよね」と答えるほかありません。嘘はダメだけど、沈黙はセーフです(そしてタイムオーバーに…)。

QAに対応するのも容易ではない

資料の開示準備が一段落すると、今度はQA対応が始まります。FAがしっかりしていたり、入札案件のようにDDを受けるほうが強気だったりすると、

  • 質問は1回●問まで
  • 優先度「高」の質問は1回あたり●問まで

と制限がついたりもしますが、そうでないケースもままあります。特に、資本業務提携のためにお互いにDDをする場合などは、相手にすることが自分に返ってくるので、寛大にならざるを得ません。

依頼資料に自力で対応できない法務ですから、QAも自力で対応できるわけもなく、こちらも毎回寄せられる質問の担当者を振り分けて協力を依頼します。そして、返ってきた答えが答えになっているかを確認して打ち返す。意外に時間がとられる作業です。

DDの後半には、インタビューがセッティングされることが多いですが、このときも、あちらの法務アドバイザーは、法務目線でお尋ねになりたいことを好き勝手に(失礼)投げてこられます。しかし、法務が答えられる質問はこれまた限られ、関係者の都合を押さえるのが結構骨折りです。いざ開催されると、変に取り繕おうとしないかヒヤヒヤしたりもします。

DDから学ぶこともある

DD対応は作業量が膨大で、苦痛を感じることも多いのですが、唯一?メリットがあるのは、会社をより深く理解できるところです。
わかったつもりでいるけれど、出してもらった資料を読んだり、QAの対応をしたりしていると、自分の理解が不正確だったことに気付かされます。
管理状況の不備に気づくこともできるので、必要なら改善を働きかけることもできます。

DDに速やかに対応できる企業は、管理能力が素晴らしいんですよね。ファンドが運営する企業が好例です。多少は近づけるように努力しなければ。

円滑なDDのために

QAを提出するとき、対象会社に敬語を使うのが常識になっていると思うのですが、特に若手弁護士の方は必要以上にへりくだるきらいがあるように感じます(「A社様」とか)。あと、「〜という理解でよろしいでしょうか」という表現も多いです。クライアントに「〜という理解をしてよいと言われました」と報告するのかしら?と思ってしまう…

エクセルに文字がぎゅうぎゅうに詰め込まれていると凡人は読む気を削がれるうえ、質問意図を誤って解釈する可能性があります。そういう虚飾はなくして、簡潔平易、法務以外の社員でも容易に理解できる表現にしてもらえるほうが、よほど当社(対象会社)への気遣いが感じられてありがたいです。
「開示資料見てよ」と思ってしまう質問も多いので、「開示資料だとここがわからないのだ」と、丁寧さは中身で発揮してほしい。