新たに取締役に就任された方が、通称(旧姓)で仕事をしたいとおっしゃいました。
もちろん全く問題はないのですが、取締役選任議案や議事録など、HOWの部分で若干の工夫・検討が必要でした。
登記事項証明書にも旧姓併記ができるように
2015年2月から、商業登記簿の役員欄に婚姻前の氏を併記できるようになっています。
それまでは戸籍上の氏名でしか登記ができず、旧姓で仕事をされる方は、登記に載っている名前が自分のものだと証明するのに一手間かけていらっしゃいました。
現在の制度でも、あくまで戸籍上の氏名が「正」で旧姓はカッコ書きですが、ひと昔前に比べるとだいぶ進歩しています。
議案や議事録はどう書くか
旧姓の使用は可能だし、登記に併記もできますが、登記はあくまで戸籍上の氏名が「正」です。そうすると、取締役選任議案や議事録上の取締役氏名はどのように記載するのが適切でしょうか。
まず大方針として、どちらの姓を前面に出すか、というのがあります。
参考書類に関するプロネクサスの手引きだと、戸籍上の氏名を前面(上)に出して、旧姓をカッコで書くことになっており、他社もそうされるほうが多数派に思われました。
しかし、旧姓を使いたいとお考えの方は、仕事で使う旧姓こそ株主に覚えてほしいはずで、プロネクサスのお手本に従うのは不本意です。そこで、当社では、株主総会参考書類(選任議案)では旧姓を前面(上)に出し、戸籍上の氏名はカッコで(しかも小さめに)書くことにしました。
また、必要的な記載事項ではありませんが、議案末尾の注記に「戸籍上の氏名は●●です」というのも加えました。これは、司法書士からの助言(という名の指示)でもあります。
次いで議事録ですが、本音では、登記で旧姓が併記されているのだし、記名押印欄も含めて旧姓だけ記載することで十分だと思っています。しかし、司法書士からは、「戸籍上の氏名(通称)」と書くように指示を受けました。従わないと登記申請してもらえないので、もちろんおとなしく従う・・・
ただし、登記申請に使用しない普段の議事録は、ご本人の「通称で仕事をしたい」という気持ちに応えて通称だけ書くことにしようと思っています。
ハンコはなんでもOK
記名押印欄には、「戸籍上の氏名(通称)」と表記せよと言われましたが、押印はどちらの姓ですればよいか。答えは、「どちらでも可」です。くだんの取締役は旧姓で押印されました。
そもそもハンコはその人のものであればよく、ファーストネームでもよいし、おそらく姓や名でないものでもよいはずです。外国人の署名など、何が書いてあるかさっぱり判別できませんし…
日本人役員で氏名と関係ないハンコを使っている人は見たことがありませんが、会社の代表印で社名と全く関係のない印鑑を登録した経験はあります*1。
電子署名はどうする?
議事録に記名押印する場合、記名押印欄は「戸籍上の氏名(通称)」としておけば、ハンコに制限はありませんが、押印に代えて電子署名にする場合はどうしたものでしょうか。
私の手元にある書籍でこの点を解説してくれているものは見当たらなかったのですが、電子署名は「押印」ではなくて、「署名」や「記名押印」に代わるものなので、やはり登記に使用する場合には、戸籍上の氏名が確認できないとダメなのでしょうね。
そうすると、事業者署名型の場合は、送信時に登録する名前を「戸籍上の氏名(通称)」又は「通称(戸籍上の氏名)」のどちらかにして署名パネルにも戸籍上の氏名が表示されるようにしなければなりません。これに直接対応しているサービスは見当たらないような…登録しようと思えばできるので、事実上の問題はなさそうですが。
なお、当事者署名型については、住民票に旧姓併記する手続をとれば、公的個人認証サービスの署名用電子証明書に旧姓が併記できるようになっています。
旧姓を使われる方のためのHOWまとめ
以上をまとめると、旧姓を使用される方がいらっしゃる場合、議案や議事録への対応は次のようになりますね。来年になれば忘れていそうですが…
- 議案には、戸籍上の氏名も併記する。どちらを前に出してもOK。
- 議事録(の記名押印欄)は、「戸籍上の氏名(通称)」にする。ハンコはなんでもOK。
- 電子署名の場合は、署名パネルでも戸籍上の氏名を確認できるようにする。
実は、参考書類での氏名の表記について、(弁護士である)社外役員や株主から、「なぜ現姓を書く必要があるのか?」という質問を受けました。
本人確認のため、議事録には戸籍上の氏名も併記せざるを得ませんが、参考書類は旧姓(通称)だけにするようになっていくかもしれませんね。そのほうが、きっと正しい。