法務のこれからを想像したとき、やはり全社的な法務リテラシーの向上なくしては法務として理想的な振る舞いができないし、会社としても成長を望めないという結論に達しました。
そこで、「今後、幹部候補生を1年ほど社内インターンとして当部門でお預かりしたい」と、人事責任者にお願いしてみました。すると、「確かに幹部候補は管理系のスキルを身につけていかないといけないよね。」という返事だったので、ついに我が社に社内インターンができる!と期待に胸を膨らませたのも束の間、「3か月とか6か月とかのプログラムにできる?」と言われました。。
もともと考えていた「1年プラン」
「1年間のインターン」を求めて、人事責任者には、次のような触れ込みで挑みました。風呂敷広げすぎたかもしれません。
法務でインターンすれば、次のような能力を養うことができる。
- 事務処理力
- ビジネスの理解
- 法律等の理解力
- 情報収集・法的分析力
- 文章起案力
- プロフェッショナルとしての倫理
- 組織横断的行動力
- 解決策の整理・提案力
- 交渉力
- リーダーシップ能力
これらの能力は、例の経済産業省の国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書の付属資料として示された経営法務人材スキルマップで掲げられているものです。だから、嘘ではないんです。笑
そして、1年後には、定型的な契約書のレビューや不当表示の判断、簡単な会社法対応(非公開会社の定時総会対応など)などができるようになり、「本社の法務に相談すべきか」の判断が適切にできるようになる、という到達点を示しました。
3か月プランでは何を残すか?
そもそも、1年のインターンで上述のような能力を本当に身につけられるのか眉唾なところ、これを3か月で実現する魔術を私は知らないので、3か月のプログラムでは多くを削らねばなりません。
何を残すか?を考えたとき、インターン終了時に「法務に来てよかったな」「法務には確かに学ぶものがあったな」と思ってもらうことが重要と考えました。そこで、①3か月である程度マスターできる、ということを大前提に、②使用場面が多い、又は③するのが楽しいという軸で選定することに。
残ったのは、次の3つです。
- 秘密保持契約のレビューができる
- 不当表示の判断がある程度できる(「絶対NG」がわかる)
- 商標調査ができる
秘密保持契約のレビューは②、そのほかは③のタイプでしょうか。
なぜ秘密保持契約か
法務に学びに来る以上、「契約書は1通も見なかった」では残念すぎるので、何か一つ契約書レビューのスキルをマスターしてほしいところです。そうすると、おそらく秘密保持契約以外に選択肢はありません。2-4頁で軽く、条項も定型的ですから。
幸い、秘密保持契約はどの企業でも締結数が最も多いと思われ、職場に戻った後でも活かしてもらいやすく、また、自分たちが扱う情報の重要性を考えるきっかけにもなるはずです。
もちろん「生」の案件を経験してもらうことが望ましいし、おそらくそれが可能ですが、仮に不足する場合でも、秘密保持契約だと教材になり得るケースがごまんとあり安心です。実際、法務に配属された新人には、「まずはNDA千本ノック」と言っていますし(もちろん、1,000通もみることはないですが)。
不当表示と商標調査を選んだ理由
契約書レビューについては、秘密保持契約で満足することにして、他の2つを選んだ理由ーそれは、取っつきやすいし、善後策を考えてもらうこともできるからです。
時に判断が難しいものもありますが、不当表示も商標も参照すべきルールはさほど多くないし、複雑でもないので、法務のバックグラウンドがなくても大丈夫(多分)。また、たとえば、「食べれば痩せる」という現場の提案がNGの場合には、代案や善後策を示すことになりますが、これを考えてもらうこともいい脳の体操ではないかと思います。「食べれば健康に」「食べればリフレッシュ」ならどうかと、アイデアを考える⇔調べる・検討するを繰り返すことで、法的なリスク感度も高まるのではと期待しています。
3か月だと武器は渡せないが強力な防具を授けられる
わずか3か月のインターンシップでは、法的思考を武器に新しいルールを作ったり、交渉に活かすというのは難しいでしょうが、こうやって考えてみると、たった3か月でも自分を守る術であったり、お守りのようなものは渡せるのではないかと思えてきました。大変ではあるけれど、この方法なら1年コースよりも4倍の人材を受け入れることができるので、悪くないかもしれません。