配属されたての法務パーソンは、まず初めに秘密保持契約書から契約書チェック業務を習っていくと思います。
そして、変更覚書のような軽い内容、自社の雛形ベースの取引基本契約や業務委託契約などから、徐々に相手方の作成した契約書、他のジャンルへとレベルアップしていきます。
この習得の道のりの中で、賃貸借契約書への挑戦がひとつ大きなステップになると感じています。理由は、普通の企業ならそんなにしょっちゅう巡りあわないことと、借地借家法や不動産業界の慣習など、普段の業務では接することのない知識に触れるためです。
当社では、1年目の終わりくらいから経験してもらっているのですが、早いでしょうか…
賃貸借契約書のチェックはまれ
企業で見る賃貸借契約書は、主に事業用建物の賃貸借契約です。ビルの一部を借りるものであったり、リースバック形式で一棟建ててもらって借りたりするためのもの。
ですから、しょっちゅう依頼はないけれど、一定規模の企業なら年に1件くらいはあるタイプの契約書なので*1、読み方を教えてくれる講座があってもよいと思うのですが、なかなかない。経営法友会に何回かリクエストしたことがあるのですが、実現していないような…
そんなわけで、私のチームのメンバーは、書籍を参考にするものの、結構苦労してレビューしています。自分がチェックするときは、期間の中途で解約する場合に、敷金や建設協力金がいくら返ってくるのか、違約金はいくらかくらいしかしっかり見ていないかもしれません。。
貸主が強すぎる違和感
慣れない法務パーソンが賃貸借契約書をレビューして戸惑うのは、貸主優位がすぎる条件が多いことです。
事業用建物の賃貸借契約だと、その道のプロである貸主の雛形を用いるので、貸主優位は当然とわかっているものの、違約金の条項などを見ると目玉が飛び出そうになるらしい。
中途解約するなら残存期間分の賃料は違約金として払え、というのは、普通賃貸借はもちろん、賃貸借が10年、20年の定期賃貸借でも珍しくありません。リースバック形式のものなら、建設協力金まで取られてしまいます。
ほかにも、修繕費用が躯体部分含めて借主負担にされていたり(リースバックのとき)、原状回復工事や修繕工事は貸主の指定業者に依頼しなければならなかったり…
A工事・B工事・C工事という分け方も、常識のように書いてありますが、その世界の人間でないとわかりません*2。
賃貸借契約+金銭消費貸借契約=課税文書
リースバック、建物の建設資金の一部を建設協力金として借主が拠出し、借主指定の仕様で建設された建物を借主が借り受けるタイプの賃貸借の場合、建設協力金は、賃貸借期間を通じて分割し、賃料と相殺することで返済されて行くのが通常です。
たとえば、建設協力金3,000万円を拠出し、賃貸借期間が20年であれば、3,000万円÷240か月=125,000円が毎月の賃料から値引きされます。
建設協力金を拠出して賃料を割り引くこのやり方は、金銭消費貸借契約に該当します。すると、リースバックの定期建物賃貸借契約は課税文書となり、建設協力金の額に応じた印紙税を納付する必要があります。こんなの、知らなければ絶対に見落としてしまう…
裁判管轄はどこにすべき?
メンバーがファーストレビューしてくれた賃貸借契約書を確認するとき、悩むことがひとつ。紛争の合意管轄をどこにするか、という問題です。具体的には、土地の所在地にするか、当事者の本店所在地にするか。
私の認識では、不動産取引の場合、不動産の所在地を合意管轄にすることが多いので*3、そうなっていれば修正を見送って良いのでは?と思ってしまうのです。しかし、賃貸借契約書を見慣れない法務パーソンには、できれば自社の本店所在地、次点で被告の本店所在地という修正が必要に感じられる模様。確かに、自社からアクセスが悪いと困るので、できるならそうしたほうがいいのかもしれない…
このあたりも、「最近の常識」を教えてもらいたいです。。
貸主有利な契約をのんだのは自社
長く使うつもりで借りても、事情は変わるもの。やむを得ず中途解約しなければならないときもあります。改めて中途解約のペナルティを知り、「なんとかならない?」と相談を受けることもあるのですが、基本的に妙案はありません。裁判例でも、事業者間の賃貸借だと契約条件が尊重されるのが通常のようです。事業者同士、しっかり検討して契約したのでしょう?というわけですね。
普通賃貸借で残存期間分の賃料を支払うとか、それくらいのペナルティは良いとして、定期賃貸借のペナルティは痛い。何か良い落とし所が提案できないものかと、契約書を見るたびに思うのですが*4、どなたか教えてくださらないでしょうか。