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大阪で働く法務パーソンのはなし

【本】取引法務と会計・税務の勘所

先日発売されたこの本を読みました。

感想を書くついでに、私が会計・税務周りで気にしていることを書いてみます。

本の感想をひとことで言うと、「クロスボーダー取引が頻繁にある会社で、これからその経験を積む方や、今積んでいる方にお勧めしたい」です。著者名みたら想像つきますけども…

本の構成

この書籍は、初めに「契約書は大事です。ちゃんと関係者と詰めておかないと大変なことになるかもしれませんよ」という導入があって、企業で直面しやすい税や税制に関する概説の後、いくつかの典型的な取引を取り上げ、各取引での留意点を述べています。法務のことも会計のことも書いてあるけど、基本的に税のお話です。

わずか190頁足らずのコンパクトな書籍なのに、新収益認識基準と電子帳簿保存法に結構な紙幅が割かれているのはタイミングの問題でしょうか…ちょっと違和感。

クロスボーダー取引の記載が多く、国内取引が少ない

この本では、クロスボーダー取引での税務上の留意点がコンパクトに説明されているので、これからクロスボーダー取引(海外進出含む)に取り組もうとする法務の方は、財務経理やコンサルの話についていくために一読して損はないと思います。

私はクロスボーダーの経験は大してありませんが、それでも以下のようなワード・税制は財務経理部門やアドバイザーたちとの間でよく聞きましたし、これらが取引スキームを大きく変える可能性があります。この本では、これらがどういうものかを概説してくれています。あくまで概説です。

  • 租税条約
  • PE(恒久的施設)
  • 過少資本税制
  • 移転価格税制 ←これが一番
  • タックスヘイブン(対策税制)

個々の取引の解説でも、クロスボーダー取引での留意点の解説にかなり重点が置かれていて*1、国内取引の留意点を知りたくて本書を手に取ると残念な思いをすることになるかも。
かくいう私も、今は仕事のほとんどが国内取引で、メンバーに税務的なケアを意識してもらうための本として使えるかな?と思って購入してみたのですが、そういう目的には適しません。

この本を通読した後は、特定の取引を念頭に「どこに留意すればよかったかな?」と見返すことになるだろうから、国内取引/クロスボーダー取引で明確に分ける構成のほうがうれしかったです。

国内取引ではどこに気を遣うか

クロスボーダー取引のほうが税務上の留意点が多いから、そちらが手厚くなってしまうのも無理はありませんが、一般的な法務パーソンは国内取引から経験を積んでいきます。

強く意識しなくても財務経理がよしなにしてくれるところが多そうですが、基本的なところでいえば取引金額が「税抜」なのか「税込」なのかしっかり書いておくとか、法務パーソンであっても税について心に留めておいたほうがいいことはあります。

以下は、私がよく遭遇してきたポイントです。

適格要件を満たすか?

「法務的には問題がなくても税務上問題がある」の典型はグループ内組織再編ではないでしょうか。法務が選択肢やプロコンを提示しても、最終的には適格要件を満たすかがキャスティングボードを握っているように見える*2

法務的には、「なんで『特定役員』は専務・常務からなの?」など、適格要件の合理性に疑問があるんですけども。。

寄付になるか?

これは所属先の事業上の特性かもしれませんが、寄付金にならないか?というのもよく検討事項になります。

販促としてお金やモノを提供することがあり、それらが寄付ではないと明確にするため、この金品は「●●の対価だ」と契約書に書いておくといった話です。個々の金額は小さいので、寄付になったから直ちにどうこういう話ではありませんが…

課税取引か?

法務の(そもそも社会人の)経験が浅いと、何に消費税等がかかるのかもピンときにくいです。

不動産の賃貸借契約を初めて見ると、地代に(税別)とつけたりするのはあるあるですね。会社分割なら消費税等が発生しないけど、事業譲渡なら発生するといったことも、気を抜くと見落としてしまうかも。

印紙税め・・・

そして、このブログでも過去に書いていますが、法務で一番付き合う税は印紙税でしょう。税金のことは法務に聞かないでよ…と思ったりもしますが、いくらの印紙を貼るかは、事業部門からすれば契約書作成・締結の一プロセスなので法務に質問するのは自然です。

そういえば、この本には、土地賃貸借の場合は課税文書・建物賃貸借の場合は課税なし、という点は書いてあったけど、建設協力金を支払う場合は、建物賃貸借+金銭消費貸借になり支払額を契約金額として課税文書になるという件はなかったな。
うっかり見落とすトラップだと思うんですけども。

*1:言うまでもありませんが、このコンパクトさですから、この本だけでクロスボーダー取引上の税務上の留意点をすべて網羅できるわけではないです。財務経理も大変そうだな…と同情が芽生えましょう。

*2:なので、この本にも適格要件についてはもう少し詳しく触れてほしかったです。「適格」つながりでいうと、ストックオプション税制についても触れてくれたら。。