Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

結局、電子帳簿保存法対応はどうなったか

f:id:itotanu:20220116151201p:plain

改正電子帳簿保存法の施行により、今年から電子取引の記録はデータでの保存が義務付けられました。昨年の後半は準備が大変だった会社も多かったと思います。「経理にはすべて紙で出す」当社はそうでした。

ところが、昨年末に「宥恕措置がとられる」という噂が広まり、そのとおりになったのが、なんと施行日の5日前。

f:id:itotanu:20211229233621p:plain

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sonota/0021011-068.pdf

宥恕措置つき法改正に、所属先は①どんな対応をとったか、②運用開始後どうなっているかをご紹介します。反面教師になさってください。。

宥恕規定の内容

繰り返しですが、改正電子帳簿保存法では、電子データの請求書、契約書などは、一定の措置を講じた上で電子データで保存しなければなりません。

f:id:itotanu:20220114225245p:plain

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-095_03.pdf

2021年までは印刷して保存しておけばよかったので、かなり大きな変更です。案の定、「間に合わないよ!」という声が多数あり、向こう2年間はこれまでどおりでOKになった…という顛末。

ところで、電子帳簿保存法施行規則をよく見てみると、附則2条3項は以下のとおりで、「やむを得ない事情がある」と所轄税務署が認めないと宥恕措置は受けられないように読めます。

 

この省令の施行の日から令和五年十二月三十一日までの間に電子取引を行う場合における新令第四条第三項の規定の適用については(略)納税地等の所轄税務署長が当該財務相令で定めるところに従って当該電磁的記録の保存をすることができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(略)の提示若しくは提出の要求に応じることがができるようにしているとき」と(略)する。
(強調筆者)

この点、一問一答に以下の説明がありました。冒頭のパンフレットのとおり、宥恕措置を受けるのに特別な事情は不要のようです。

 

この宥恕措置の適用にあたっては、保存要件に従って保存をすることができなかったことに関するやむを得ない事情を確認させていただく場合もありますが、仮に税務調査等の際に、税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを、具体的でなくても結構ですので適宜お知らせいただければ差し支えありません
(強調筆者)

当社の対応とやってみた感想

数か月かけて準備してきたところに宥恕規定。ここからは、改正を迎えた当社のお話です。

宥恕規定は見なかったことに

宥恕措置がとられますが、当社はこれに頼らないことになりました。今年からは、電子契約もPDFの請求書も、すべて所定の方法で電子保管するようお達しが出ています。

宥恕規定を使わない判断の裏側を想像するに、次のような理由があったのでしょう。

  • 宥恕規定が明らかになる前に、すでに新ルールを案内しており、更なる変更は混乱を大きくする可能性がある。
  • 2年後にはなくなるので、今から正しい習慣を身につけてもらうほうがよい。

事務処理規程に従った運用を選択

電子取引データの保存にあたっては、真実性の確保が求められます。方法としては、

  • タイムスタンプをつける
  • 訂正・削除の履歴が残るか、それらができないシステムで授受と保存を行う
  • 訂正・削除を防止する事務処理規程を定めてこれに基づき運用する

のいずれかを採用しなければなりません。ひとことで電子取引データといっても、タイムスタンプがデフォルトでつく電子契約もあれば、PDFの請求書などもあるし、どれかひとつのシステムで完結させることも難しく、当社は事務処理規程で対応することになりました。きっと、同じ選択をした企業が多いと思います。

訂正・削除させないための運用が煩雑

当社では、電子取引データが発生した場合には、Microsoft Formsを使って所定の事項とともに経理に提出することになりました。

Formsで収集されたデータは、自動連携するkintoneに蓄積されます。kintoneの記録は、他部署の社員は見ることもできない設計になっていて、権限を持った人(経理の一部の社員)以外は編集不能にしているのでしょう。

Formsを使うのは、当社がMicrosoft365を使っているからですが、最終的な保存先をSharepointでなくkintoneにした理由は不明です。。本当は基幹システムを刷新し、そこに一元的に保存したいようですが、2022年には間に合いませんでした。

オペレーションは紙に合わせる

社会ではペーパーレス化が進んでいるとはいえ、当社の支払のオペレーションは、紙で回っています。ワークフローを利用するとはいえ、その承認結果のコピーと請求書、さらには稟議のコピーまで経理紙で送らないと支払いをしてもらえません。せっかくPDFで請求書をもらっても、どのみち印刷が必要なのです。

今回の法改正でもオペレーションは変わらないので、「Formsで所定の事項を記入してデータを送る」という一手間が増えただけ。ワークフローと自動連携してくれればよいのですが、その時間はなかったようです。結果、「Formsの入力事項が多い上に重複して面倒」と不平が出る始末。

おそらく漏れだらけなので宥恕規定はありがたい

これまでの紙のオペレーションは維持され、電子契約やPDFの請求書のときだけひとつ仕事が増えることになった我が社。電子データの提出を忘れる人が続出するでしょう。
さらに、登録を忘れても経理ではタイムリーに気づけなさそうです。

特に漏れそうなのが電子契約で、請求書があれば支払処理自体はできるので、ルールを知っていても「電子契約も登録が必要」と気づける人は少ないように思います…*1

私たち全員が新しいルールを身につけるには、まだしばらくかかりそう。2年間の宥恕規定は保険としてありがたく活用させていただくことになりそうです。

*1:電子契約の中でも、電子取引データとして登録が必要なもの(支払が発生するもの)と、そうでないもの(秘密保持契約など)があり、従業員に判断させるのは困難です。かといって逐一聞かれても法務や経理が疲弊するので、所属先では「もう全部保存しちゃおう」という判断になりました。