2022年の公益通報者保護法改正から初めて本決算を迎え、指針に従い運用実績の概要の開示にとりかかっています。
みなさん、いったいどうされているんですかね。。
改正により変えたのは従事者指定と公表のしくみ
振り返ってみると、法改正を理由に内部通報対応で変えたものは実質ありませんでした。これまでだって、通報者の保護と自浄作用の発揮の両方を実現するよう心を砕いてきたので当然といえば当然です。
では改正で何が変わったかというと、次の二つ。このあたりを踏まえて規程やマニュアルを見直し、ついでに受付票もアップデートしました。
- 「従事者」の指定
- 公表のしくみ
会社には、内部通報業務に従事し、通報者を特定させる事項を知る者を「従事者」に指定する義務が新たに生まれ、自分で自分を従事者に指定するようボスに提案(指示)しなければなりませんでした。
私のようにあらゆる通報内容に接する人間は、包括従事者として一度指定してしまえばよいのですが、個別の内部通報の調査のために通報者を知ってしまう人もおり、この人たちの従事者指定ってかなり曖昧だと感じています。もしかして、他社ではしっかり指定しているのかしら…
従事者になってしまうと、「刑事罰つきの守秘義務」という爆弾を抱えながら対応にあたることになるので、いっそ指定しないでおいて、万一のときには指定をサボった会社の責任ということにすればいいのでは、、と思ったりなんかして。
もうひとつ対応が必要だった改正点は、内部通報の運用実績の概要を公表することです。最近、非財務情報として開示する企業も増えていらっしゃいますが、所属先では通報件数の開示を役員にすらしてこなかったもので、地味に大きな転換点です。
法改正によっても通報件数は増えなかった
公益通報者保護法の改正目的は、これまで以上に公益通報をしやすくすることで企業が自浄作用を発揮し、早期是正や被害防止を図ることでした。
結果、どうだったか?所属先では、通報件数は改正前と変わりませんでした。個別の窓口を持っているグループ会社に聞いても変わらなかったとのことでした。
法改正があったことやその概要は全社に周知しましたが、実質的に何も変わっていないので当たり前かもしれません(元々年に数回窓口の周知はしている)。
内部通報の件数は、「従業員100人あたり年間1件が目安」的なことが言われますが、所属先グループはこれを大きく下回り、受け付けたものに限ると0.2未満です。少なすぎるようにも思うけれど、同業他社も似たようなもの。不正自体はあるのですが、通常業務で発覚することが結構あるので、内部統制が素晴らしいのかもしれません*1。
誰に何を開示するか、どこまで開示してよいか
法律が変わったからといって、特に何も変わらなかった所属先。上述のとおり、所属先ではほとんど公表してこなかったので、*2、ここはかなり大きな変化で、何をどこまで公表するかおっかなびっくりです。
社内に公表するにあたり検討が必要だったのは大きく以下の3点。
- 役員とそれ以外で内容を変えるか
- 何を周知するか
- その方法・時期
指針の解説では、公表内容の一例として以下4つが挙がっていました。
- 過去一定期間における通報件数
- 是正の有無
- 対応の概要
- 内部公益通報を行いやすくするための活動状況
内部通報業務に従事するメンバーで議論をしたところ以下のような意見があり、
- 「是正の有無」や「対応の概要」は通報者と認識相違が生まれるかもしれない
- 「対応の概要」は通報者や被通報者を特定するおそれがある
- 「内部公益通報を行いやすくするための活動状況」も受け手と温度差が生まれそうだし、一応全社向けにやっているからわざわざ「やりました」と宣伝しなくても…
結局、所属先では、以下の措置をとることにしました。
- 役員とそれ以外で情報の粒度は区別しない(同じ情報を出す)
- 開示するのは通報件数と大雑把な種別(例:法令違反、社内規程違反、その他不正、ハラスメント)のみとする(不正・懲戒処分の公表と同じ粒度)*3
- 取締役会での報告後、全社に社内通達を発信
もう少し詳細を公表したほうが窓口の信頼性は高まるように思いますが、どのみち案件を特定しうる情報は出せないので、あまり変わらないかなと考えた結果です。今年の反応を見て、また来年考えます。