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大阪で働く法務パーソンのはなし

改正公益通報者保護法対応リストを作ってみる

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某大手事務所の弁護士さんが「9月中に出る予定」とおっしゃっていたので、首を長くして待っていた公益通報者保護法の「指針の解説」が10月13日にリリースされました。

率直に言って、ほぼ予想どおりであり、通報者としては物足りない。経営側としては、厳しいところもあるけれど、ほっと一息というところでしょうか。

「指針の解説で明らかにする」は果たされたか

夏に出た指針パブコメ結果では、

 

指針の解説においてもその旨を明らかにしていく方針です

御提案の内容も踏まえながら、「指針の解説」の策定作業を行ってまいりたい

という表現が随所に見られましたが、新しい情報はあまりなかった印象です。

結局、ハラスメント窓口は内部公益通報受付窓口なのかどうか、受付担当者は従事者に指定されるべきかどうか、指針の解説を読むだけではよくわかりません。
文言上は、ある窓口が内部通報受付窓口かは、「その名称ではなく、部門横断的に内部公益通報を受け付けるという実質の有無により判断」することになっています(指針の解説第3.Ⅱ.1(1)③)。そうすると、「内部公益通報」の定義から考えるとハラスメント窓口も受付窓口であり、受付担当には従事者指定が必要に思えるのですが、指針や指針の解説全体を読むと「ハラスメント窓口の担当者はケースバイケースでOK」と言われているような気がする。。

人事部門に置いても、顧問弁護士事務所に置いてもOK

パブコメでは、「内部通報受付窓口を人事部門や顧問弁護士に設置すべきでないと明記すべきだ」という意見が相当数寄せられていました。パブコメでは、「各自で最適な措置をとってくれ」という趣旨の見解が述べられていましたが、指針の解説では以下のような書きぶりになっています。

 

人事部門に内部公益通報受付窓口を設置することが妨げられるものではないが、人事部門に内部公益通報をすることを躊躇(ちゅうちょ)する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意する。(指針の解説第3.Ⅱ.1(1)④)

いわゆる顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とすることについては、顧問弁護士に内部公益通報をすることを躊躇(ちゅうちょ)する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることにも留意する。また、顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とする場合には、例えば、その旨を労働者等及び役員並びに退職者向けに明示する等により、内部公益通報受付窓口の利用者が通報先を選択するに当たっての判断に資する情報を提供することが望ましい。(指針の解説第3.Ⅱ.1(4)④)

  • 社内窓口は人事部門以外(総務や法務)に設置
  • 社外窓口は弁護士事務所に設置(顧問事務所であっても、受付担当弁護士は通常の相談にはタッチしない)

という独立性確保・利益相反排除措置をとっている企業は結構あると思うのですが、蓋をあけると対応責任者=人事責任者で、「どこに通報したって人事の耳に入る」というところは結構多いのではないでしょうか。会社が変わらないなら内部告発しましょうということですね。

TODOリストを作ってみる

改正法、指針、指針の解説と、来夏の改正法対応に向けて必要な材料はひととおり揃いました。時間は十分にありますが、従業員300人超のグループ会社へのサポートも必要なので、あまり悠長でもいられません。

まずは、TODOリストの作成に取り掛かっています。まだ粗いですが、こんな感じ。

  • ボスへの改正内容の説明
  • 体制整備が義務的なグループ会社の洗い出し
  • 対応方針の決定(当社で全部受け付けるか、グループ会社に個社窓口を残すか)
  • 担当部門と責任者の決定(グループ会社分も)
  • 従事者の決定・決め方の決定・通知方法の決定
  • 独立性確保の方法の検討(監査役などへの報告ラインを新設するか)
  • 利益相反の範囲の決定
  • 記録の保管期間・方法の見直し
  • 運用実績の開示内容・方法の検討
  • 対応体制の定期評価・点検方法の検討
  • 社内規程改定
  • 受付・調査担当者マニュアルの改定(通報者を特定させる事項についての同意の取り方など)
  • 人事部門との連携(退職時の伝達事項として内部通報できることを伝えてもらう)
  • 啓蒙資料の作成
  • 周知方法の検討

法改正とは直接関係しませんが、ここまで大幅に見直すのであれば海外グループ会社の体制も見直す必要があるでしょう。当社の進出国は、個人情報の海外持出しが厳しい上、法適用の予測可能性も低いところが多いので、考えるだけで暗い気持ちになります。。

内部通報規程は全面改定、さらに啓蒙資料も

指針・指針の解説では、指針で求められる事項については内部規程に定めることになっているので、内部通報規程の改定は必須です。
当社の場合は構成も刷新したほうがよさそうで、指針と合わせようかとも考えたのですが、ちょっとバランスが悪そう(いきなり従事者から始まるのは変…)。

最大の問題は、どこまで細かく書いていくのか。あまり詳しく書くと自分の首を絞めてしまいますので。

さらに、指針の解説では、対応体制の教育周知の一環として、労働者等に以下を呼びかけることが考えられるとあります(指針の解説第3.Ⅱ.3(1)③)。規程に書いたところで誰も読まないので、別に啓蒙資料を作成して呼びかけていくことも必要そう。

 

  • コンプライアンス経営の推進における内部公益通報制度の意義・重要性
  • 内部公益通報制度を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
  • 内部規程や法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
  • 通報に関する秘密保持を徹底するべきこと
  • 利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先するべきこと
  • 上記の事項は企業の発展・存亡をも左右し得ること

ただ、内部通報制度は通報者の救済を目的とした制度ではないので、こういう啓蒙によって制度を「正しく」理解した労働者等はどういう行動をとるのか、ちょっと不安でもります。