Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

「内部公益通報」とハラスメント相談

今年度下期のチームの課題2本柱は、①改正個人情報保護法対応と②改正公益通報者保護法対応です。

個人情報保護法はかなり重たいテーマですが、こちらは他のメンバーにも馴染みがある業務なので、分担も可能です。一方、公益通報者保護法・内部通報制度は、中心的に対応しているメンバーが極めて限られ、改正法対応を検討できるのは自分だけ…

先日の記事でも書いたとおり、改正法対応のためには、何が公益通報なのかをよく理解する必要があることをひしひし感じています。

legalxdesign.hatenablog.com

公益通報だったらどうなる?

なぜ公益通報に該当するかをよく理解する必要があるのか。それは、内部への公益通報に該当した場合、会社は従事者を従事者自身に明らかになる方法で定めなければならないからです(改正法11条1項、指針第3)。

そして、従事者とされてしまったら、法律上守秘義務を課され(改正法12条)、違反すれば当人が刑事罰の対象になり(改正法21条)、ひいては民事上のリスクまで負わなければなりません(民法709条)。

改正法上、内部公益通報に該当するかは、以下のように判断します(改正法2条1項、3条1号、6条1号)。

  1. 通報対象事実が刑事罰・行政罰の対象になるか
  2. 役務提供先又は役務提供先があらかじめ定めた者への通報か

問題は、現場ではこの境界線を上手にひけないことです。そして、法と指針でも従事者の線引きが違うように読めます。

ハラスメントは犯罪か

公益通報かどうか判断に悩ましい代表例は、ハラスメントでしょう。当社でも内部通報の大多数はハラスメントの申出ですが、ハラスメントは犯罪行為といえるでしょうか。

厚生労働省パワハラの6類型で考えてみます。

  1. 身体的な攻撃
    暴行罪や傷害罪が成立する余地がありそうです。
  2. 精神的な攻撃
    侮辱罪や名誉毀損罪が成立する余地がありそうですし、これが原因で病気になれば傷害罪ということになるかもしれません。
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害
    3〜6は、それ単体の行為では犯罪と評価するのが難しそうですが、繰り返し行われて病気を発症してしまったりすると傷害罪の成立余地がありそう。

セクハラの場合は、強制わいせつといった可能性もあるでしょう。

とはいえ、問題行為が犯罪(構成要件に該当する違法有責な行為)に当たるかを、通報受付時点で社内の者で評価するのは難しいし、危険。
そうすると、誠実な会社であれば、「いったんすべて公益通報として扱おう」となりそうです。

もっとも、普通の企業は今だって通報者保護にはかなり気を遣っていて、仮に本人が顕名で通報してきていても、関係部署への調査・是正措置依頼時には可能な限り名前を伏せるなどしていると思います*1

今後はより一層注意して業務に当たらないといけないのですが、オープンなオフィスが好まれ、内部通報を受け付ける電話もオープンスペースに置いてある当社。。

代表取締役宛投書は窓口宛ではないと扱ってよい?

刑事罰や行政罰の対象となるかどうかの線引きも難しいですが、法的な守秘義務を負う従事者は、内部公益通報を扱う人すべてというわけではなさそうです。
というのも、指針では、従事者として定めるべきは、内部公益通報のうち、窓口で受け付けるものだけになっているからです(指針第3の1)。

 

内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。

(下線は筆者)

 

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従事者の定めが必要な内部通報

しかし、窓口への通報かどうか、判断が難しいケースもあるのではないかと懸念しています。

というのも、当社にはたまに代表取締役宛に「当社にはこんな不正がある!社長はこれを見逃すのか!」みたいな投書が寄せられます。杓子定規に当てはめれば、当社の内部公益通報窓口は私たちの窓口か人事部門の窓口かのいずれかなので、代表取締役宛は窓口宛でないと扱ってもよさそうです。

正しい窓口に通報していない通報者に落ち度があるとはいえ、本人はそう書けば窓口に届くと信じて、あるいは代表取締役こそ窓口だと信じているのかもしれません。そうであれば、正しい窓口、通報方法の周知・教育が足りず、体制整備違反という評価にもなりかねないような。。

さらに、法では内部公益通報対応業務につく者を従事者と定めよと書いているのに、指針は、「窓口において受け付ける」という限定がついて、法の範囲からえらく狭まっているように読めるのは、国のご配慮でしょうか。ありがたいけど混乱する。。もしかして、指針は最低ラインしか言っていないのでは?と。

内部通報制度は苦情解決・感情慰撫が目的ではないというけれど

内部通報制度の目的は、会社が自浄作用を発揮して不正行為を早期に発見・是正することにあると理解しています。そして、不正を早期に発見するための施策として、受付のハードルを下げているところが多いでしょう。

当社も、内部通報に受付制限は設けておらず、そのほとんどはパワハラです。
パワハラで調査するとなると、人事のほか、現場の部門長などの協力も必要ですし、是正措置をリードするのは人事と現場の部門長です。そうすると、受付窓口である私たちに加えて、人事や部門長を「仮従事者」に指定しておく=これまで以上に通報者の身元扱いに注意させるのがよいのかなと考えているところです。

まもなく公表されるといわれる指針の解説に何かヒントは書いてあるだろうか…

*1:「内部通報しても、担当者に身元をバラされるから怖くて通報できない」と言う人が当社にもいます。しかし、実際には漏れたのは私たち担当者からではなく、通報者自身が周囲に「通報した」と吹聴したのが回り回って被通報者の耳に入ったということも珍しくありません。あとは、懲罰委員会メンバーが酒席でしゃべってしまうとか。。なんでこの人たちがお咎めなしで、通報担当だけが法律上の守秘義務を負わされなければならないのか。。