Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

誰からどんな通報を受け付けるか

誰もやってくれないので、ちまちま内部通報制度の改善を探っております。

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そして、何度も振り出しに戻ってしまうので、備忘メモ。

誰からどんな通報を受け付けるか

「グローバル内部通報制度」などと一言で片付けられますが、実際に運用に携わっている方とそうでない方では解像度の高さが違うように思います。後者の方にとっては、「グローバル本社に(重大な)内部通報が入ってくるしくみ」くらいのイメージでしょう。かくいう私も昔はそんなところでした。

しかし、いざ手を動かしてみると、直ちに次のような課題に直面します。

  • 世界中の1株でも資本の入っている会社を対象にするのか
  • 世界中の従業員の社内規程違反やハラスメントも拾うのか
  • 世界中から受け付ける場合、受付ルートは万国共通にするのか

はい、無理。

目的から考える

今回は外部委託を考えていて、料金が従業員数に応じて決まることもあり、【グループ会社を名乗る世界中の会社の役職員・退職者+取引先】というフルセットは難しいので*1、何らかの基準で絞っていく必要があります。

そこで、そもそも何のための内部通報制度だったかを省みると、不正の早期発見・是正を促し自浄作用を発揮することが目的であって、被害者の救済を目的にしているわけではありません。
そうは言っても、日本国内では、内部通報制度の整備が義務付けられる会社は、パワハラ防止法ではハラスメント相談窓口の設置も義務付けられるし、いわゆる「ビジネスと人権」やCSR調達アセスメントでは、サプライチェーンの人権問題について救済へのアクセスを確保することも求められており、このあたりのバランスも睨む必要があります。
ユーザーからすれば、窓口はひとつのほうが便利のはずですし。

グループ会社の線引き

何のためにやるのかを整理する段階でカオスですが、前に進まないといけないので、まずは利用対象の会社を考えます。選択肢は次のような感じ。

  1. 資本が1株でも入っている会社
  2. 関連会社まで
  3. 連結子会社まで
  4. (国内のみ)公益通報者保護法で整備が必須な会社(常時雇用従業員数が300名超)
  5. (海外のみ)除外

最低限の対応は4&5ですが、規模で切ると最終親会社や中間の統括会社が漏れてしまうのと、当社は海外からの通報もたまにあるので含めないわけにはいかず、3の国内外の連結子会社までを対象するのが落としどころと考えています。

退職者や取引先を含めるか

会社の次は、退職者や取引先からの通報も受け付けるか。

公益通報者保護法の適用がある会社は、退職後1年以内の従業員からの通報を受け付けなければならず、そうすると同じルールを全社に適用するのが自然です。この点は、外部委託先候補も寛容でした。

悩ましいのは取引先で、外部委託先候補複数にお尋ねしたところ、取引先からの通報を受け付ける会社さんはまだそれほど多くないそう。受け付けている会社さんでも、「なんでもバッチコイ」というところは「ほぼ皆無」で、自社が不正や不適切行為に直接関与している場合に限るところが多いとのこと。
営業の方に、「サプライチェーンに問題があることを知ってしまったら、会社としては何らかアクションが必要になり、サプライチェーンの断絶が起きる可能性がありますからね…そこまでできますか?という問題です」と率直なお話を聞かせていただきました。

自社商品の重要な原材料には古くから問題を孕むものがあるので、ここは悩みどころです。

通報対象事実を限定するか

どこの誰から受け付けるかが固まったら、実質面はあとひとつ。通報対象事実を限定するかどうか。

公益通報者保護法上は、同法の別表で定める法律に抵触するとペナルティがあるような事実のみ受け付ければ足りますが、内部通報制度の目的や内部統制の充実を考えると社内規程違反も対象にすべきでしょう。かといって、現実にはハラスメントの相談がほとんどで、それが世界中から来てもパンクする。

そこで、今は次のようにしようと考えています。これは、日本のグローバル企業ではわりとオーソドックスなスタイルのようです。

  • 国内役職員・退職者は、法令・社内規程違反、ハラスメントその他事実上制限なし
    (=公益通報者保護法パワハラ防止法をクリア)
  • 国内取引先は、自社グループが直接問題行為に関与しているものに限定
  • 海外役職員は、トップの不正、贈収賄カルテルに限定

受付手段は全員に平等にするか

実質が決まれば、次は形式です。受付手段は、電話、文書、ファックス、メール、専用ウェブフォームなどが考えられ、これはお願いする外部委託先に依存しますが、ざっくりした傾向としては、国内役職員・退職者からは手厚く、取引先や海外からは限定する、というのが一般的のようです。全員平等は理想かもしれないけれど難しいです。

外部委託の場合、言語・時差・通話料の問題から、海外から電話で受け付けるのは難しく、手紙を出そうという人もなかなかいないと思われるので、メールやウェブフォームに限定するのが一般的のようです。取引先は、お願いすれば電話受付も対応していただけそうですが、その場合は費用が変わってくるのでなかなか…*2

国内は手厚く、海外や取引先からは限定して

以上をまとめると、次のようなスタイルが今のところよく見られるパターンのようです。うちもやるならこのあたりからと考えています。

  • 対象は(連結)子会社まで
  • 国内役職員・退職者からは、通報内容にあまり細かな制限を設けず、手段もいくつか用意して利用のハードルを下げる
  • 取引先からは、自社グループが直接関与している不正・不適切行為に限定し、手段もウェブやメールなどに限定する(主たる目的は内部への牽制?)
  • 海外役職員からは、通報内容を重大な不正に限定し、手段もウェブやメールなどに限定する

*1:お財布的な難しさが最大の壁ですが、言語の問題もあります。日英中では足りない。

*2:料金は対象者の従量制なので、取引先の数を見立てるのが難しい。