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大阪で働く法務パーソンのはなし

特許出願にやきもきする

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自社の商品で使用している同種の技術が特許出願されていることに気づいたら、どんなアクションをするべきでしょうか。

同種技術の特許出願が!

自社が使用している技術について、他社による特許出願がされていることに気づくことがあります。特許になっていたら大変だけど、経過を見ると、まだ審査請求されていなかったり、審査中であったりする。そんなとき、自社はどういう対応をするのが望ましいのでしょうか。

まずは内容を精査する

当たり前ですが、まずは出願の内容(請求項)を精査します。先使用権の成立可能性があるか、特許になりそうなものであるか、などです。私のこれまでの経験では、「先を越された!」というものはなく、話題の製品について「やっぱり…」となるか、「なんでこんな周知の技術を出願したんだ!特許になってたまるか!(怒)」となるかのどちらかです。

先使用権の成立余地がある場合

先使用権の成立可能性があれば、立証できるような証拠を探します。確定日付までは備えられていないかもしれないけれど、会社の業務でやっていれば、なんとかなりそうなことが多いと思います。当社の場合は協力会社さんが多いので、外部とのやりとりで証拠が確保しやすいし、ラボがあれば実験ノート的なものがあるはず。

証拠の使い方

では、その証拠をどう使うか。使い道には、

特許庁に情報提供する
②登録時に異議申立てする
③登録後に無効審判請求する
④いざというときに備えて持っておく

といった方法が考えられます。

「これが特許になったらおかしい」という出願には、たいてい①情報提供が行われています。おそらく同業他社のどなたかがされているので、とても感謝していますし尊敬します。うちにはその余裕がない…
②は、通常は代理人に依頼して身元を隠してするのでややパンチに欠け、有力な証拠があるなら、正面切ってけんかをする③か、相手方がふっかけてきたときの返す刀(④)にするかのどちらかでしょうか。

技術の内容によるでしょうが、先使用権がほぼ確実に成立するケースでは、出願人・特許権者も存在を把握している可能性が高いと思います。そのため、自社で技術を使用し続けても何もおっしゃってこず、④証拠として持っておくのがリーズナブル。
というのが商品のライフサイクルが短い当社のお話です。重要な技術なら、ノウハウが露見するリスクを覚悟で③をとるか、シビアな判断が求められるのでしょうね。

特許は取れるもの?

やや楽観的なことを書いたのですが、私の出願側の経験上、出願が100%否定されたことはありません。何らかの特許は取れます。
特許は、最初に出願した内容から、審査官の指摘を受けたところだけを削ったり修正したりして、最後に残ったものが権利化されます。したがって、最初は大風呂敷を広げるのが通例で、できるだけ「面」で出願し、削られ削られするけれども何がしかの「点」を残せるのが一般的です(そのためにプロの力を借りている)。

よって、先使用権成立の余地にかかわらず、どの「点」が残るのかを注視したほうがよく、結果、「自社に関係なかった」となる可能性も大いにあります。結論、出願の事実を知ってしまうとやきもきしてしまうけれど、結果が出るまで有効な手は打てない…

そうはいっても知るなら早めがいい

権利化されるまでは、どう権利化されるかわからないし、侵害も成立しません。だから、堂々と使用したっていいわけです。しかし、万一自社で使用している技術と同じ技術が権利化されていたら、その瞬間から当社は侵害者になってしまうので、心の準備はしておいたほうが良いです。先使用権の成立余地があれば、証拠を押さえにかからないといけませんし。

そのため、公開公報や特許公報をもう少ししっかりチェックしたほうが良いという話になり、今年はうちのチームでそれをやろうと考えています。難しいのは出願の拾い方で、本当はテーマコードやファイルインデックスとかで漏れなく拾ったほうがいいのですが、数が多くなりすぎて拾うのも大変だし、見るほうも大変。よって、当面は、有力な同業他社だけにする予定です。
どの同業他社も抱えている課題なのだから、各社がコストをかけてするのではなく、業界団体がやってくれたらいいと思うんですけどね。