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大阪で働く法務パーソンのはなし

知的財産活動調査に取り組む

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政府の調査は年中あると思いますが、当社の法務では、なぜかこの時期かなり立て込んでいます。直近で対応しているのは、知的財産活動調査模倣被害実態調査委託元との取引に関する調査…といった感じ。子会社のものも対応するので、回答の主体を混同しておかしな回答をしそうになることも…

苦手な知的財産活動調査

中でも毎年困るのが知的財産活動調査。我が国の知的財産政策の基礎資料になるそうなので、重要な調査だと思いますが、すぐに回答できない質問が多くて苦手です。
本当は断りたいところですが、始まる前や回答期間中、「よろしくお願いします」と受託企業から電話やハガキでの催促がすごい。一度、回答をサボったことがあるのですが、「遅れてもいいから」と電話が何度もかかってきたので、気が進まないけれども毎年回答しています。

しかし、こっそり白状すると、結構「エイヤー」なんです。当社ですらそうなので、特に大手の消費材メーカーは、どれくらい真面目に回答しているのか気になる。ある程度の大企業は、そもそも特実意商で管理部門も違うはず…

苦手質問①知的財産活動費用

この調査では、会社の属性に続いて、初めに人員体制の質問があり、次に続くのが「貴社での直近の会計年度における知的財産活動費をお答えください」という質問。「知的財産活動費」とは何かというと、出願系費用、補償費、人件費その他となっていて、さらに出願系費用については特実意商の内訳(国内/海外)まで聞かれます。

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令和2年度知的財産活動調査 調査票サンプル

当社では、現在はすべての出願を法務で管理しているのでまだマシですが、それでも一年分の代理人費用を産業財産権別に分けて出すのは面倒です。また、当社では、知財専従の従業員はおらず、法務全体で見れば10%くらいをリソースをあてているような気がしますが、私はほとんどしないし、一人ひとり時間単価も違うので、正直適当。このあたりがまだまだDXされていないところですね。

なお、昨年度の調査によれば、1者あたり平均は年間約1億円だそうで、化学・金属・機械製造が平均を押し上げています。

苦手質問②実施(使用)件数

この調査では、直近の会計年度末時点でいくつ知的財産を保有し、さらにそれらを実施・使用しているか?、他社にライセンスしているか?という質問があります。これが一番苦手というか、正直わかりません!

まず、当社グループでは、産業財産権の権利者を最終親会社である純粋持株会社に寄せています。純粋持株会社は、自ら事業をしないので、自社で実施・使用する権利はないというのが正しいだろうと思います。商標も、不使用取消審判では「使用」を争えるかもしれないけど、独立した商取引の対象となる商品・役務はありませんから。
そして、最終親会社が持っている権利は、すべて事業子会社に丸ごとライセンスしています。特定の権利を指定するのではなくて、「ご自由にどうぞ。代わりに売上の●%納めてね」というスタイルでやっているので、これは全件ライセンスしていると考えてそのように回答しました。
本当に回答して欲しいのはそういうことではなくて、実際に使っているのはどれくらいかということでしょうが、あいにく厳密な調査はしたことがありません…特許も商標も、使っているかどうかわからないものが結構あります。不使用取消に備え、商標などは毎年使用状況を確認したほうがいいのですが、何しろ消費財ゆえ、取り消されて困るものは常に使用しており、その他は取り消されても基本的に困らず、数百件のひとつひとつをつぶさに確認するインセンティブは働きません。他社はしっかりされているのだろうか…

こちらは昨年度の調査によれば、国内特許権の利用率は47.6%、防衛目的が35.6%、国内商標権の利用率は78.2%だそうです。特許は、年金も年々高額になるのに、実際に使っているのは半分以下なんですね。

苦手質問③ロイヤリティ額

さらに特許庁からは、ロイヤリティでどれだけ稼いでいるか、どれだけ取られているかまで尋ねられます。これも、申し訳ありませんがかなりざっくりで回答しております。。
言い訳は次のとおり。

  • 商標使用許諾の対価なのか、著作権利用や商品化権の対価なのか明確でないものが結構多い
  • 純粋持株会社の場合、経営指導料の中にロイヤリティを含んでいる

分けようがないので、合算して申告しているのですが、結構な過大申告かと…

こちらは昨年度の調査によれば、対国内、対外国ともに収入の方が多く、しかもグループ内からの収入が圧倒的に多いそうです(下図)。
外国企業からのライセンス収入が多いというのは意外でした。グループ内だとしっかりロイヤリティを取っておかないと税務当局の目が厳しいということなのでしょう。当社の場合、海外子会社から「自分たちがブランドを育ててやっているんだ!」とか言って抵抗に遭うこともあるんですけども…

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令和元年知的財産活動調査結果の概要

調査があることで問題を認識する

以上のとおりで、結論、特許庁は、当社に質問をするのはやめたほうがいいと思うんです。。

一方で、当社としては、年に一度、「面倒だな」と思いながらも1年間の権利やお金を動きを確認することで、「あれ?この特許、年金支払われているけれど誰がメンテしているんだ?」といったことに気づけるので、貴重な機会であることは事実です。もう少しDXを推進して、権利の状況を見える化しないとな…と今年も誓うのでした。