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大阪で働く法務パーソンのはなし

今年も下請調査

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今年も下請法の定期調査対応が終わりました。やれやれ。
今年は、例年より少し遅めでしたね。

www.shitaukechousa-oya.go.jp

知的財産権の質問が増えた

毎年恒例とはいえ、微妙に質問が変わったり増えたりします。今年も、知的財産権の取扱いに関する質問がパワーアップしていました。

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https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2021/210726ShitaukeSearch03.pdf

下請調査は、過去1年間の下請取引を対象にした調査のため、当社では法務部門で回答することが困難で、下請取引を行っている各部に回答の素案を作成してもらっています。 

今回も対応を依頼したところ、とある部署から、「質問に変更があった場合には、その旨と変更の趣旨を教えてくれないと困る」とフィードバックを受けました。。
確かに回答依頼をしているのは法務だけど、「ここの質問が去年と変わったから気をつけてね」といちいちフォローするほど正直暇じゃないし、今回に関しては「読めばわかる」と思ったんです…まして、質問が変わった理由なんか知るわけない。
「知りたかったら、自分で中小企業庁公正取引委員会に電話しておくれ」と言いたい気持ちをぐっとこらえました。。

ノウハウは知的財産権ではない

今回新たに誕生した設問13のリード文は以下のとおりです。

 

委託内容によって下請事業者に知的財産権が発生する場合、「給付の内容」に含めて当該知的財産権を譲渡させるのであれば、給付の内容の一部として発注書面に記載する必要があります。また、その場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を下請事業者と十分協議の上で設定して下請代金に加える必要があります。さらに、作成の目的たる使用の範囲を超えて、無償で譲渡・利用許諾をさせたり、発注時に下請事業者の給付の内容になかった知的財産権やノウハウが含まれる技術資料を無償で提供させるなどして下請事業者の利益を不当に害することは禁止されています。

そして、直後の設問は、

 

下請事業者に知的財産権が発生する委託を行い、その譲渡を受けたことがありますか。

となっています。

リード文では、「知的財産権」と「ノウハウが含まれる技術資料」を並列で書いているので、これは区別していると理解してよいのですよね?「ノウハウが含まれる技術資料」が発生する委託を行い、その譲渡を受けたことがあっても、ここは「ない」と回答するのが正しいんですよね?

「ノウハウが含まれる技術資料」は、著作権が発生しないのであれば、あとは営業秘密に該当する可能性が考えられます。営業秘密それ自体は、知的財産基本法にいう「知的財産」なので、「知的財産権」と並列的な書き方をするのは表現として正しい。知的財産について法的保護を受けられる権利を総称して知的財産権と通常は呼んでいるので(知的財産基本法2条2項)、こう書かれるととても混乱するのですが…
「ノウハウが含まれる技術資料」が発生する取引は、知的財産権が発生する取引では。。

ノウハウの提供を受けていたら?

「こんな製品をつくりたい」と委託先に相談して、「こんなふうにすれば実現できるのでは?」と助言をもらったり一緒に試行錯誤したりすることがあります。

私の知る限り、この部分に対価を払ってないことはよくあると思う…頼むほうからすれば製造委託の一環だと思っているでしょう。そして、そこで仕入れた情報をよそでも使っていたりする可能性は結構あるのではなかろうか。。

下請取引で発生・利用する知的財産について、不当な経済上の利益の提供要請が行われていることを確認したかったら、

  • 委託業務にない仕事をさせていないか?
  • 委託業務の過程で発生した/下請事業者から提供を受けた知的財産や知的財産権の取扱いについて発注書面で定めているか?定めていない場合はどうしているか?
  • 知的財産や知的財産権の譲受け・利用許諾に適切な対価を払っているか?

といったことを正面から聞いたほうがよいのでは?と思いました。本来、給付の内容として3条書面に書くべきだという認識が薄いのでしょうから。

こんなことを書いて、来年質問が変わってたら怖いんですけど…