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大阪で働く法務パーソンのはなし

【本】即実践!!電子契約

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当社でも電子契約の導入可否を検討していましたが(ペンディング中)、電子契約どころかDXまで捉えた書籍が出たということで読んでみることに。

後半、技術的な説明はついていけないところがあったのですが、電子契約を導入しようとする人にとってはとても実用的かつ参考になる本でした。

全容を掴みにくい「電子署名

電子契約について学ぶときにつまずく最初の関門のひとつは、「電子署名って何?」だと思います。本書では、「電子署名」を最広義(「署名の意図があることを示す電子的な信号」)から、最狭義(例として認定認証機関のデジタル署名)まで捉えて説明しています。結果わかることは、「電子署名」だけではどんな電子署名を指しているかわからない、ということですが…

電子契約は誰が締結するべきか

以前に、電子契約の導入で一番考えなくてはならないのは、「どのアドレスを使うか」ではないかということを書きました。それについても触れられていました。

 

(略)電子契約締結用のメールアドレスを作り,当該メールアドレスを使える者を限定した上で,決裁を経た取引について当該メールアドレスを使って契約を締結することとする,といった対応方法が考えられます。

もっとも,相手方への説明の問題は残りますので、①押印規程について説明をしたり,基本契約で定めるなどして,部長のメールアドレスで「同意」ボタンを押された場合には取締役の承認があったことを担保する「使者構成」とする,PDF上でサイナーを「取締役〇〇代理人〇〇」と記載するなど,本格的な「代理」構成とすると言った二通りの解決方法が考えられるでしょう。(P.69-70)

そして、親切なことに、基本契約案が掲載されています。「基本契約」って、取引基本契約のことかと思ったら、サンプルは「電子契約の形式による取引に関する基本契約書」と、電子契約の締結に特化したものでした。

私のように、社長や役員のメールアドレスを開示することに抵抗を覚える場合には、実務責任者レベルへの締結権限の授権を社内規定で定めた上で、必要であれば「貴社との●●に関する取引のための契約を締結する者として以下の者を指名します。」というような書面を差し入れたり、基本契約を締結したりして対応するのが良いということでしょうか。この場合、その書面は「紙」になりそうですが…

「電子契約で締結したい」と言われたら

当社でも「相手方が電子契約でっていうのですが、OKですか?」という質問をちらほら受けるようになりました。よく知られた電子契約サービスであれば、(そんなに重要な契約ではないから)深く考えずに「いいですよ」と答えていたのですが、本書では、最低限確認すべき事項として以下4点が挙げられています。

 

①その契約書で使用することが法令上禁止されていないかの確認
②機能として当社が望むものがあるか、使いづらくないか
③タイムスタンプが付されるか
④社内規程上受け入れられるか

①は当然クリアするとして、②はなかなか難しいかもしれません。どの事業者さんも、サインするところのUI・UXは優れているけれど、その後の管理のところはどうなんでしょう。まず、アカウントを持っていないと確認できないケースが多いので(電子サイン系)、誰が署名したの?いつ署名したの?という情報がPDFファイルだけではわかりにくいですね…③もないものの方が多いです。④は見てもなかった…!

文書管理規程は紙文書管理規程

本書の双璧は、電子契約と文書管理のDXです。1冊で取り上げるテーマではないのでは?と突っ込みたくなりますが、1冊になっているからありがたい。本書に登場する会社ではないけれど、当社もまさに、文書のDXが叫ばれ始めています。

本書を読んで認識しないといけないと思ったのは、「文書」といった用語の射程。 当社にも当然文書管理規程はありますが、読む限り「紙文書管理規程」に思えます。つまり、電子的な文書は射程に入っていなかった。また、「文書管理規程」で統制しなければならないのは、「文書」なのか「文書に記載された情報」なのかもあやふやになっていました。

本書では、サンプルとして「文書情報管理規程」が載っており、これは文書情報(中でも「法的な義務の履行又は業務処理の証拠してして作成されるもの」)をターゲットにしています。単に電子文書を含む文書管理規程としなかった理由がわからず…

ちょうど当社も、情報セキュリティ活動の中で、「文書管理規程が規定どおり運用されていない」問題が浮き彫りになっていて、この規程をどう見直すか頭を悩ませているところ。そもそも管理したいのは、「文書」なのか「情報」なのかも混乱しています。そりゃ後者でしょう?と思いきや、法令で保存義務が課せられるのは前者なので、焦点は文書のほう。

効果測定の方法まで

他にも、効果測定の方法まで紹介されていたり、ページをめくるたびに「ふんふん」と付箋を貼りたくなる本でした。
後半は一問一答形式で、自分の理解度が浅いこともあって、ついていけなかったり、すっきりしないところもあったので、何回か読み直してみたいです。 なお、本書の発売は今年の8月末だったので、当然ながら電子署名法3条に関する政府見解は含まれていないことは要確認です。

今月には、クラウドサインでセミナーもあるそうです。