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大阪で働く法務パーソンのはなし

特許に追いかけられる

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最近、特許の質問が続いてあたふたしました。特許は法律と技術の理解がないと評価できないから、文系の道を突き進んできた自分には苦手な相談…という方が多いと思います。我が社メンバーはみんなそうです。でも、相談が来たからには受けて立てねばなりません。

相談①特定の特許の侵害可能性の相談

まずは、当社のある製品が、特定の特許を侵害するか?という質問。この手の質問は、間に開発部門のサポートが欠かせないものの、まだ対応がしやすいです。
請求項を構成要素に分解して、それぞれの要素を全て満たすか検討すれば良いからで、ある請求項がa+b+c+dに分解でき、当社の製品がdの要素を持たないなら非侵害といえます。

要素を有するかどうかは、明細書まで確認すべきときもありますが、技術に明るい開発担当がいれば心強いです。弁理士に相談するとしても的を射た質問ができます。

相談②こんな特許がないか調べて欲しい

「当社の製品は、この特許に抵触していないか?」というのが最も多い相談ですが、事情を聞いてみると、その特許の抽出方法が「大海で一本釣りしたらたまたま引っかかった」という状況のことがあります。そういうときは、その特許に抵触しないことが判明しても、他に見るべき特許がないかを確認してもらうように依頼します。その最初の洗い出しまでやって返すのが当社流?

一本釣りではなく、ある程度狙いを定めて網をかけ、そこからキーワード検索で抽出するというのが一般的なやり方だろうと思います。当社の場合は、網はFIでかけています。弁理士には、テーマコードでも見た方がいいのでは?と言われるのですが、そこまで広げると結構な量になってしまうので足踏みしてしまいます。狭く絞っても100件は出てきますからね…

当社では、有料データベースを使っておらずJ-PlatPatで抽出するため、これも結構大変です。現在有効な特許だけを抜き出すことができず、一件一件経過情報を見なければなりません。選択した特許の一覧のCSVでのはきだし方もわからず…

最近、J-PlatPatの改善がめざましいとは思いますが、うまく使えていないので、さらにUI・UXの改善に期待しています。

相談③特許に抵触する!先使用権は成立する?

そして、たまにある困った相談が、「特許に抵触することがわかった!」というもの。大抵は、ちょっと変えれば抵触を回避できるのであまり問題にならないのですが、数年に1回の割合で回避不能なものが発生します。幅広に権利が押さえられてしまったパターンです。

これまでの経験では、そういうものは出願前から権利範囲内の製品を製造販売していて、先使用権成立の余地があるものばかりなのですが、それを証する証拠を押さえるのが難しかったりします。
社内のフォルダに製品の規格書はあるけどエクセルだったりPDFだったりして、出願前に存在したことを証明するには力不足というわけです。この場合、当時のメールのやり取りを発掘しなければなりません。担当者が退職していたらどうするんだ?という話です。

企業によっては、こういう場合に備えて確定日付をとったりタイムスタンプをつけたりされるそうですが、当社はそこまで特許に対する意識が高いとはいえません…

先使用権が成立するということは、無効理由があるということですから、出願中であれば情報提供することが、登録直後なら異議申立てすることが考えられます。この点、ある企業の方とお話したところ、そういうことをしたところで認めてもらえるかわからないので、いざというときに備えて資料をためておくだけで、自ら積極的には仕掛けないとのことでした。

なるほど、確かに自分からわざわざ費用をかけて戦いに行く必要はないかもしれません。名前がバレると角が立つので、特許事務所に名前を貸してもらったりしないといけませんしね。

どれくらいの年次の法務パーソンに担当してもらう?

チームリーダーとしてもうひとつ難しい問題は、こういった質問はどれくらいの年次の法務パーソンに任せるかというもの。

当社では、商標はとっつきやすいこともあって、配属ほやほやのスタッフにも担当してもらっていますが、特許は悩ましいです。相談①くらいなら、比較的若い年次でも大丈夫だと思いますが、相談②③はそれなりのリテラシーが必要です。

今回、法務2年目と5年目の法務パーソンに②③を振ってみたのですが、結構しんどそうでした…自分が理解するのも難しいし、あまりよくわかっていない相手に説明するのも難しい。2つの高いハードルを超えねばなりませんが、そんなに頻繁にくる相談でもないので、せっかく経験しても、血肉になる前に忘れてしまうんですよね。残念。