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大阪で働く法務パーソンのはなし

「一般消費者」はどこにいるのか

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商品の表示チェックは、私たちのチームの主要な仕事のひとつです。めったにはありませんが、起案者である開発チームとぶつかることもあります。このとき、AでもBでもないC案を見つけることができずに苦しむことが多いです。

表示をチェックする人たち

当社商品の表示は、開発チームが起案した後、次の人たちがそれぞれの観点からチェックしたあとで上市されます。

  • 法務(顧問弁護士やJAROに協力を得ることも)
  • 顧客対応部門
  • 品質管理部門
  • 外部のアドバイザー
  • 業界団体(公正取引協議会含む)

法務の守備範囲は「法的観点」

私たちは「法的観点でみよ」と言われるので、基本的には①知的財産権の抵触がないか、②不当表示に当たらないか、を確認します。

知的財産権については、他人の登録商標や著名な商品等表示、著作権への抵触がないかといった観点で確認するのですが、見るべきものが多くて結構大変です。ただ、これらは一定程度蓄積された考え方や類推できそうな事例があるケースもありますし、弁護士や弁理士から説得力のあるコメントを得ることもできるので、開発チームと揉めることはあまりありません。

社内で見解が分かれて調整に苦労するのは不当表示のほうです。私たちは主に、薬機法、健康増進法景品表示法への抵触がないかを確認しますが、このジャンルは判断がとても難しく、ありていに言って、(ご専門でない限り)弁護士の助言も期待できません。

不当な表示とは?

私たちが扱う商品の表示に関連して通常参照すべき法令は、以下のとおりです。商品によっては他の法令や業界団体によるさらに細かいルールもありますが、一般的な飲食料品、サプリメントなどの基本は同じではないでしょうか。

 

薬機法
第六十八条(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)
何人も、…医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ…承認又は…認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。

 

健康増進法
第六十五条(誇大表示の禁止)
何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項…について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。

 

景品表示法
第五条(不当な表示の禁止)
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

これらの法令の中でとりわけよく問題になるのは、健康増進法景品表示法

  • 「著しく事実と相違する」
  • 「著しく人を誤認させる」
  • 「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する」
  • 「一般消費者に誤認される」

というフレーズです。

健康増進法の「著しく事実と相違する」「著しく人を誤認させる」の判断基準も一般消費者が受ける印象・認識を基準としますので*1、結局すべて「一般消費者がどう受け取るか」が判断基準になります。

「一般消費者」はどこにいるのか

私たち法務は、判断基準が「一般消費者」であることは承知していますし、起案者でもなければ商品に関して特別な知識も(思い入れも)持ち合わせていないので、「一般消費者」代表のつもりで確認しています。
しかし、開発チームが起用する外部のアドバイザーや公正取引協議会とは見解を異にすることもよくあります。そして、それらは往々にして法務よりも見解が緩い(開発チームに都合がよい)のです。開発チームには、権威ある?公正取引協議会や色々知っている?外部のアドバイザーこそ「一般消費者」の代表だとか言われることも。

まったく「一般消費者」なんてどこにいるのでしょうか。
特許や意匠の「当業者」と一緒で架空の存在だと思っていますが。

私たちからすれば、消費者庁などから指導を受けても何ら責任を取らない外部のアドバイザーや、景品表示法が守備範囲の公正取引協議会の意見が、過去事例や他社の使用状況も総合的に検討して判断している法務より優先されるのは納得がいかないことが多いんですけど。。

JAROは頼りになる

一般消費者の認識が判断基準となる場合、先ほど書いたように弁護士の見解はあまり期待できません。ここで頼りになるが、JAROです。

JAROのありがたいところは、会員限定ではありますが、

  • 個別具体的なケースでも助言をもらえる(デザインやコピーも見てくれる)
  • 自社に寄せられる消費者からのご意見をDB上に掲示してくれる
  • 他社の相談事例がDB化されて閲覧できる

といったサービスを受けられること(そのほかセミナーを割安で受けられるなどの特典もあります)。年会費は安くはありませんが、一定規模の企業ならためらう額でもありません。なにせ、当社が入会しているくらいですから。

と、ここまで持ち上げて何ですが、正直に言ってJAROの見解は保守的です。でも、「ここはリスクが高すぎる」とか「こういう表現は問題ないと思う」と具体的に言ってもらえるのはとてもありがたいです。

JAROが「一般消費者」の代弁者であるとまでは言えないんですけど。。