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大阪で働く法務パーソンのはなし

重要契約を締結したスタートアップが破たんしたらどうする?

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子会社が、事業運営上重要な契約をスタートアップと締結すると言い出しました。
技術はあるのかもしれないけれど、率直に言って、経営状態はかなり不安定です。

「もし、会社がダメになって、サービスを受けられなくなるのは困る!なんとか利用継続を契約で縛れないか」と相談がありました。よくありそうな話です。

ソフトウェアライセンス契約の場合

問題の「重要な契約」とは、あるソフトウェアのライセンス契約です。
とても重要な業務に用いられる基幹的なシステムとして利用するのだといいます。綱渡りしますね。

実際、利用を確保する方法にはどんなものがあるでしょうか。

当然対抗制度があるから大丈夫?

プログラムが特許となっていても、なっていなくても、現在は当然対抗制度が用意されているので(特許法99条、著作権法63条の2)、ライセンス契約期間中は利用が保証されているから大丈夫、と整理することが考えられます。

ただ、どんな人の手に渡るかわからないので、安定的な利用を目指すのであれば、これだけでは心許ない。新権利者とライセンスの条件交渉もしていかないといけないでしょうし。

ライセンスではなく、開発委託へ変更する?

安定的な利用を確保しようとすると、ライセンスでは物足りず、プログラムを自分のものにしてしまうのがよさそうです。そこで、ライセンスから開発委託契約へ方針転換して、プログラムを買ってしまうというアイデアがあります。お金に余裕があるなら検討の余地ありです。

ただ、そのプログラムが多くのユーザーの利用が見込める優れたものなら、スタートアップが丹精込めて上市したプログラムを1社に売り渡すことは考えにくいです。出資者たちも反対しそう(そして、当方のグループ会社が出資者だったりもする…)。

ライセンス料総額を貸し付けて担保を取る?

ライセンスを受けるという話で進めてきたのに、「開発委託で」と方針変更するのはなかなか現実的ではありません。では、こちらに資金力がある前提で、ライセンス料総額をドカンと貸し付けて、プログラムに担保を設定してはどうでしょうか。毎月のライセンス料は、貸付との相殺により支払います。

著作権にも質権設定ができますし、譲渡担保もできるとされますが、対抗要件を備えるためには、文化庁への登録が必要です(著作権法77条、プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律3条)。そして、その場合、プログラムの複製物を文化庁長官に提出することとされます。

ひとこといえば、「面倒くさい」ですね。。

万一のときには無償/有償譲渡させる?

文化庁への登録とか、そんなかったるいことはなしで、契約条項に何か書くだけでなんとかならないか?
現場からは、そんな正直な意見が寄せられます。

その場合の案には、「万一のときには無償譲渡せよ」という条項を加えることが考えられます。もちろん、相手方を慮って「有償で」とすることも考えられますが、「有償」だけでは定めた意味が乏しく発生時にワークしないので、対価の決め方か金額を定めておく必要があるでしょう。

加えて、「無償で」とした場合、詐害行為だとか破産時に否認されるとかいうようなリスクも考えられます。この点は、経産省のモデル共同研究開発契約書でも触れられています。

ソフトウェア・エスクロウなるものを使う?

M&Aの決済方法で時々話に(だけ)あがるエスクロウが、実はソフトウェアの世界にもあるそうです。ただし、毎年費用が発生することや、ソースコードを外部に預けることをスタートアップは嫌がる傾向で、実際にはあまり使われていないと聞きました。

www.softic.or.jp

利用契約で縛ってもワークしなそうなので、会社ごと買う?

以上のとおり、利用契約で万一のときの対応を定めようとしても、手軽で実効性の高いものはありません。一ユーザーがサービスの永続的な使用を約束させるなど、現実的ではないので当たり前なのですが。

では、どうすればよいでしょうか。
ひとつのアイデアは、プログラムだけではなく、会社を買ってしまうことです。会社ごと、あるいは事業ごと買ってしまえば、少なくとも自社の利用に支障は出ないはずです。

ただ、そうなった場合、スタートアップの(優秀な)エンジニアたちはいなくなるでしょうから、開発・改善を続けるには、別の他社の力が必要になります。この場合、そうなった後は保守が精一杯なのかな…