Legal X Design

大阪で働く法務パーソンのはなし

秘密保持契約を見直す

f:id:itotanu:20210314222648j:plain

秘密保持契約の自社雛形を見直すことにしました。
気持ちとしては、雛形は年に1回くらいの頻度で見直したいのですが、気付けば前回の見直しから5年以上経っていました…

見直すきっかけ

私は「作ったものを作りっぱなしで放っておくくらいなら、最初から作らない方がマシだ」という考えを持っているので、私のチームで作る雛形は、数が少ない方だと思います。それでも、さすがに秘密保持契約は、情報授受の方向に合わせて複数パターンを用意しています。

雛形をエイヤで作るのは嫌なので、作るとなるとかなり入念にリサーチして作り込むのですが、5年以上も経つと流行や綻びがあるもので、見直す決意が固まりました。具体的なきっかけとしては、次のようなものがあります。

【外的要因】

【内的要因】

  • 現行の雛形だと、秘密情報として扱いたいものが秘密情報に当たらない可能性があることに気づいた
  • 他社から雛形にツッコミが入った

秘密情報の保護ハンドブックなんて5年も前に出ているし、OneNDAだって去年の夏にローンチされているので、もっと前から着手すべきでしたが、のらりくらり。内的要因がいよいよ無視できないと考え、重い腰を上げることになりました。

お取引先に突っ込まれる

見直しの最後のトリガーになったのは、お取引先からのご指摘でした。雛形にご指摘を受けるって恥ずかしいですよね。。

自社の雛形では、情報を「所有」するという表現を使っているところがあったのですが、お取引先から「所有は有体物に使う表現であり、無体物である情報に使うのは不適切だ」というご指摘をいただいたのです。「便宜的な表現ってわかるくせに意地悪だわ」と正直思いましたが、そういうご指摘を受けて営業マンにも恥ずかしい思いをさせたかもしれないと反省して見直すことにしました。

相手方と共に作り上げた情報は秘密情報に当たる?

ただ、それ以前からマズイなと感じていたのは、雛形における秘密情報の定義でした。様々なバリエーションがあるものの、「秘密情報とは、相手方から開示された情報をいう」という表現が多いと思います。秘密情報の保護ハンドブックに掲載されているサンプルも、次のように定義しています(第4 業務提携の検討における秘密保持契約書の例)。

 

本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。(略)

業務提携においては、基本的に相手からもらった情報だけで検討が成り立つので、この記載で問題はないと考えられますが、取引関係に入った後の秘密保持について定める場合、この定義では不十分に思えます。
たとえば、売買契約における取引条件(割引率や協賛金など)は、合意により形成されるものなので、どちらかから開示されたというのは違和感を覚えます。

どう見直すかー性質や状況から秘密と認められるものまで含む

では、どう見直すか。OneNDAにヒント(答え)がありました。

 

本ポリシーにおける「秘密情報」とは、本取引に関連して、開示当事者が受領当事者に対し、開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上または営業上の情報、その他一切の情報または情報の性質および開示の状況から合理的に秘密と認められる情報をいう。

(強調筆者)

確かに、最近、この太字部分に相当する条件を盛り込んでいる秘密保持契約を見ることがあります。OneNDAでは、この部分については以下のように要約(補足説明)されていて、これは「開示した情報」じゃないかと思うのだけど…

 

※合理的にみて秘密であると認められる情報とは、例えば、取引先リスト、取引先の情報、コスト、製品・商品・サービス等のアイデアマーケティング計画、事業計画、財務情報、開発内容、特許出願中の技術等が挙げられますが、これらに限れません。(原文ママ

私が懸念する取引条件が含まれるかは、結局は蓋を開けてみないとわからないのですが、少なくとも武器のひとつにはなりそうだと判断し、当社の雛形にも同趣旨の文言を加えることにしました。

なぜOneNDAを使わないのか

ここまで OneNDAを参考にするなら、そしてその取組みに共感するなら、コンソーシアムに参加すれば?と自分でも思うのですが、なかなかそうはいかない事情があります。

だって、まず、誰が参加を決めるんでしょう?コンソーシアムには法人として参加するので、ある部署は参加したいけれど、他の部署は消極的な(あるいは入っていることに気づいていない)場合、意図せず適用される可能性もあります。たとえば、当社のような地方企業だと、専属的合意管轄が東京地裁というのは最善ではありません。
会社としてこういう取組みに参加するとなれば、せめて経営会議くらいで承認をもらって周知が必要だけれど、誰が付議するというのか…私がしろよ?

また、OneNDAは、できるだけコンパクトに、そして汎用的に使えるように設計されているので、取引によってはそぐわないこともあります。たとえば、OneNDAのポリシーには有効期間や秘密保持期間の定めがない。そうすると、取引が終わった後も公知になるまでは秘密に保持して目的外使用もせず、頼まれれば破棄証明を出すのか?それって実効性あるんですかね。
OneNDAとしては、「そのへんは、当事者同士で調整してください」という話でしょうけども。

そして今日も秘密保持契約をレビューする

OneNDAには入れない。結果、「必要なら秘密保持契約を結んでください」、「でもできれば結ばなくていい程度の情報のやりとりにしておいてください」という話になり、今日も秘密保持契約をレビューする羽目になるのです…