ビジネス法務2020年4月号の特集のひとつは、電子契約でした。
すでに在庫が切れているそうで、関心の高さを窺わせますが、その理由は、本特集が「電子契約ってなに?」を事業者ではない中立的な立場で解説しているからではないかと思います。「電子契約ってどんなもの?」という疑問を調べるのに、書籍一冊読むのはちょっと大層ですよね(書籍も極めて限られるし…)。
電子契約が証明すべき3つの要件
電子契約が契約書(当事者の合意の証明)として機能するためには、①誰が、②何を、③いつ、作成したかを確かに(=一定程度長期に)証明できなければなりません。
残念ながら、現在の技術では、①〜③がセットで証明できる技術はないみたいで、①と②、②と③の証明を組み合わせることで、①〜③を証明するという方法をとるようです。
そして、①と②が電子署名により、②と③がタイムスタンプにより証明されます。
電子契約の種類
電子契約サービスを提供される事業者は、海外はもとより日本でも複数あって、中にはTVCMを打たれるところまで出てきました。では、それらの事業者が提供されるサービスはどれも同じか?価格だけで選べばいいのか?今回の特集では、その答えを得る前提として必要な電子契約の種類やしくみが丁寧に説明されていました。
まず、電子契約の種類は以下のように分けることができます。
まず、電子契約に付される署名(もどき)が電子署名法の要件を満たすものかどうか。電子署名法の要件を満たさないもの(例えば、画面上への署名など)は、「電子サイン」と呼んだりするそうです。
電子署名法の要件を満たす場合でも、その署名を当事者が施すのか事業者が施すのか、という違いがあります。電子署名は当局への登録が必要で、ちょっと煩雑なところがあるので、当事者より事業者がやってくれたほうが楽チンですが、証拠力の観点では、事業者による電子署名では疑義があるとされます。すなわち、当事者が施す場合には、紙の契約書への押印と同様に二段の推定が働く一方で、事業者の場合は電子署名するのが事業者ですから、二段の推定は及ばず、別の方法で契約の成立を立証する必要があると考えられます。
このリスクをどう考えるか、というのが、電子契約事業者の選定のかなり大きなポイントになりそうです(二段の推定が及ばないからといって、契約の存在が直ちに否定される訳ではないと私は考えますが…)。
電子署名のしくみ
電子署名のしくみをこれまで何度か学んだことがあるのですが、いまひとつ頭に入りませんでした。。その分野のリテラシーのなさにガッカリするのですが、今回の記事では、かなりわかりやすく説明されていたように思います。感謝。
電子署名のしくみを絵にすると、多分こんな感じだと思います(違ってたらごめんなさい!)。
電子署名は、秘密鍵と公開鍵というペアの鍵があって、秘密鍵は所有者のみが保有します。作成した文書を秘密鍵で暗号化し(これが「電子署名する」という行為)、暗号化前後の文書を相手に送付する。相手は秘密鍵で暗号化された情報を復号することのできる公開鍵を使って暗号化された文書を復号し、暗号化前の文書と照らし合わせて(検証して)改ざんがないことと本人による署名がされたことを確認する。
長期署名とは
契約書はものによっては何十年と継続する可能性がありますが、電子署名の鍵の有効期限は限られているので(長いこと持っておくのは怖いし…)、電子署名だけでは「いつ」作成したかを立証するには限界があります。そこで、電子署名とは別に、特定の時に当該文書が存在し、その後改ざんが加えられていないことを長期間証明する技術が必要で、それが認定タイムスタンプを用いた長期署名というわけです。認定タイムスタンプの有効期限は最大10年ですが、繰り返し取得することで、数十年にわたって電子署名の有効性を担保することができます。
結局、みんなは何を選ぶ?
特集記事では、上記のほか、電子契約のメリット・デメリット、当事者がOKでも電子契約にできない書面(不動産の重要事項説明書など)、証拠力の問題…といった紹介のあと、実際に電子契約を導入されたりその準備をされたりしている企業が、選定するにあたって検討したポイントや導入プロセスなどをご紹介されていました。
「結構カタく対応されているのだな」というのが私の正直な感想です。やはり、裁判での取扱いなど予測可能性が一定程度担保されるまでは、カタめで行くべきでしょうか。
それにしても、電子署名法に準拠しているかどうか、していたとして当事者型か事業者型か、長期署名に対応しているかどうか、と、サービス内容に重大な選定ポイントがあるのに、事業者さんによってはどのタイプかパッとはわからないものがあります。すぐにわからないということは、備えてないということなのでしょうが、比較しやすくしてくれるとありがたいですね。