消費財を扱っていると、商標の問題に結構出くわします。主には次のような問題。
さて、その適正対価あるいは相場とは、どれくらいなのでしょうか。
他人の登録商標を使用するためのアプローチ
他人の登録商標と同一・類似の商標を同一・類似の指定商品・役務に使用するためには、以下のいずれかの対応が必要です。このうち、先方への対価が発生する可能性があるのは1から4。
- 該当部分の商標権を譲り受ける
- 使用したい商標についてアサインバックを受ける
- 該当部分の使用権の許諾を受ける
- 該当部分の商標権の不行使特約を得る
- 該当部分の商標権を不使用取消審判により消滅させる
- 登録可能性を高めた態様で使用したい商標を出願する
法的には、3(通常使用権)と4は同じと解しますが、実務では契約書の書きぶりが異なるので、分けています。
実現のハードルと対価
「安心して使える」という視点で考えると、1がベストであることは言うまでもなく、3と4も期間内なら安心だけれど、いつハシゴを外されるかという不安があります。2は、排除権部分で権利の重複が生じる可能性があるし、アサインバックしてもらった商標と類似する商標を出願したいときに再びアサインバックを依頼せねばならないという不安定さが残ります。また、異なる二人の登録商標のそれぞれ類似するような場合には、アサインバックは使えません(他方が先行登録商標として引用されてしまう)。
以上のことから、実現のハードルは、1>2>3=4という順序になり、対価の額はこれにほぼ比例して1>2>3>4となるのではないかというのが肌感覚です。
対価の相場?
では、1〜4のそれぞれの対価の相場はいくらなのでしょうか。
そもそも「相場」なんてあるのか?という話ですが、事業部門から、「先方に提示するのにいくらを提示すればいいか?」と必ず聞かれるので、一応用意しています。
まず、1の商標権譲受け。現在使用されていない前提で、20〜50万円というところでしょうか。私の経験では、自社が保有している登録商標と交換したということもありました*1。
2のアサインバックは、1より下がる感覚を持っています。1は独占権も排除権も譲り渡すところ、2の場合は、譲り渡すのは排除権の一部だからです。名前をお借りする分をオンしなければなりませんが…
3のライセンスは、その商標を使用しているかどうか、自社の看板を使わせるのかどうか、でかなり変わってきますが、不使用商標の場合は、無償〜数万円程度、フランチャイズのように自社のブランドを使わせる趣旨であれば、純売上あるいは正味売上高の10%未満というところでしょうか*2。
4の権利不行使は、私の経験ではほとんど無償です。ただし、相手方が取引先だった場合は、「取引先から一定の商品を仕入れること」という条件がつくこともあります。
相場は意味がない
相場は?ということを書いておきながら元も子もありませんが、実際にはこの目安はほとんど意味がないように感じています。
一つには、指定商品・役務によってかなり違うのではないかと思われること。
私たちの業界の場合、商品は早ければ数ヶ月で消えるので、すぐに要らなくなる登録商標もそれなりにあり、更新しないくらいなら、譲ってちょっとでもお金になるとか、恩を売ることができればラッキーだったりします。また、他人の看板が事業にとって重要であれば、その分ライセンス料は高額になっていくはずです。
もう一つには、商標には幾分「想い」が入っているということ。
私の経験でも、不使用商標の譲受けで「いくら積まれても嫌」「100万くらいじゃ話にならん」ということもありました。アサインバックに協力する対価が100万円と言われたことも…
商標は、市場に流通しないし、特許や意匠以上に「いくら稼いでくれるか」が読めず価値の算定が難しいです。なぜなら、商標はそれそのものに意味があるのではなくて、使用によってどれだけ信用を蓄積できるかが大切だから。
ネーミングはよく考えて
事業部門の人たちは、色々とリサーチをした後で、「これがいい!」「これしかない!」とネーミングを決めますが、後になって、先行登録商標を発見してしまうことがあります。
「ユーザーの反応はこれがベストだから、何としてもこの商標を使いたい。なんとかして!」と泣きついてこられるわけですが、他人が稼いでくれたイメージに便乗するようで、私としてはまったく気が進みません。ユーザーの反応を見る前に、J-PlatPat見てよ!と言いたい。しかし、「え?これも登録商標?」と思わずにいられないものが登録されているのもまた事実。
本当に大事な商品なら、やはり、まだ登録されていない造語か恣意的商標を考案し、堂々と登録を狙いにいくべきです。そして、そうでない商品は、品質表示語に留めるか、そもそも市場に出すのをやめたほうがいいですね。