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大阪で働く法務パーソンのはなし

【電子契約の勉強①】DocuSignの逆襲

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電子契約の勉強が続いています。他部署に勉強の成果を報告することになったので、これまでの情報収集や思考を備忘録的に何回かに分けて残していきます。

今日は、DocuSignについて。タイトルを「DocuSignの逆襲」としましたが、私の中でDocuSignが頭角を現してきた、という意味です。

国内ではちょっと出遅れ感のあるDocuSign

DocuSignは、本体はNASDAQに上場する米国企業で、世界的大手とされます。同社の日本語サイトでは以下のとおり宣伝されていました。

 

ドキュサインは世界で一番使用されている電子署名です

  • 世界中で50万社以上の企業(有償版のお客様)がドキュサインを導入し、数億人が署名捺印しています
  • 世界のテクノロジー企業トップ10社のうち、7社がドキュサインを利用
  • 世界の医薬品企業トップ20社のうち、18社がドキュサインを利用
  • 世界の金融機関トップ15社のうち、10社がドキュサインを利用
  • 800の地方自治体や政府組織がドキュサインを利用

なるほど、世界的には電子契約=DocuSignなのかもしれません。

しかし、DocuSignでは認定タイムスタンプがつかなかったり、先日の商業登記実務の緩和でもDocuSignは入らなかったりと、国内での浸透を推進する波には今ひとつ乗れていない感があり、「グローバル対応のために一応抑えておくか」くらいの気持ちで調べ始めました。

DocuSignと国内大手サービスとの違い

DocuSignと国内大手サービスとの根本的な違いは、DocuSignが「日本向け」にデザインされていないことです。

具体的には、次のような具合。

  1. 認定タイムスタンプがつかない
  2. 発行される電子証明書は日本の行政機関では通用しない
  3. 単体では電子帳簿保存法に準拠していない

認定タイムスタンプ

タイムスタンプは、その時刻に確かにその内容のファイルがあったという「非改竄性」を担保する手段です。「認定」タイムスタンプとは、その時刻の証明を、(一財)日本データ通信協会の認定を受けた事業者がしたものをいいます。我が国的に「信頼のおける第三者が証明した」といえるわけですが、DocuSignの場合はこれがつきません。

この点、DocuSign側からすれば、「『(認定)タイムスタンプ』なんて、日本だけの話でしょ」という感じで、営業の方にお尋ねしたところ、「DocuSignが自前の万全のセキュリティで非改竄性を永久保証します。つまり長期署名も不要です」ということでした。

電子証明書

電子証明書とは、誰が電子署名をしたかを証明してくれる、紙でいえば印鑑証明書のようなものです。これまた、行政機関で使おうと思うと、行政機関が認める認証局が発行したものでなければならず*1、DocuSignは入っていません(たとえば、e-Gov電子申請で利用可能なものはこちら)。

ただ、紙の契約書同様、契約締結の場面で電子証明書が必要な場面がどれだけあるのか?という話ではあります。

電子帳簿保存法

電子契約に移行した場合、紙がないので「国税関係帳簿書類」は電子帳簿保存法の要件に従って保存することになります。その要件は、以下の5つ。

  1. 7年間の保存義務(電子帳簿保存法施行規則8条1項柱書ほか)
    紙と同じです。
  2. 真実性の確保(電子帳簿保存法施行規則8条1項各号)
    原則として、認定タイムスタンプの付与が必要です(8条1項1号)。しかし、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行」えば、認定タイムスタンプは不要です(同項2号)。DocuSignを利用する場合は後者の対応が必要です。
  3. 見読可能性の確保(電子帳簿保存法施行規則3条1項4号)
    保存場所(=税務調査を受ける場所)ですぐに画面・書面で確認できるように、PCやプリンタを備える必要があります。
  4. 関係書類の備付(電子帳簿保存法施行規則3条5項7号で準用する同条1項3号)
    誰でも使えるようにマニュアルが必要です。
  5. 検索機能の確保(電子帳簿保存法施行規則3条5項7号で準用する同条1項5号)
    データを検索できるようにする必要があり、主要項目(取引年月日や金額等)が検索条件にできたり、範囲指定ができたり、2つ以上の項目を任意に組み合わせて検索できたりする必要があります。

DocuSignの場合、単体では最後の検索機能の確保が満たされません。よって、別途台帳のようなものを準備する必要があります*2

国税関係帳簿書類」に該当する契約書とはどこからどこまでなのか、正直よくわかりませんが…

DocuSignの強み

以上を見ると、DocuSignは分が悪いように見えます(私はそういう印象を持っていました)。そこで、ズバリ強みをお尋ねしたところ、次の回答がありました。

  1. 豊富なデザイン
    電子署名はファイルに施すものなので、技術的には署名/記名押印欄は不要です。しかし、そのファイルが電子署名をしたものか、つまり最終版であるかがすぐにわからないという不便を感じる方が多いそうです。そこで、DocuSignでは、電子署名をするときに、任意の署名鑑や印影を付し、一目で最終版とわかるようになっているのですが、そのデザインが他社に比べて大変豊富なのだそうです。シャチハタ社と提携もされています。
  2. セキュリティ&安定性
    DocuSignでは自前のサーバを用意し、トラブルが少ないことが強みだそうです(営業マン談)。国内大手は、AWSを使ったり、自前だけれど障害を連発しており、不安がありませんか?と言われました。自前>AWSなんでしょうか…?
  3. 豊富なAPI
    350ものAPIをご用意されているとのこと。自社システムに組み込む大手企業も存じ上げています。
  4. グローバル認知度
    世界188か国で利用され、対応言語も13言語とのこと。
  5. 課金形態
    国内大手は、契約書1通あたり●円という形で課金しますが、DocuSignの場合は「エンベロープ」という単位で課金します。まさに「封筒」で、複数ファイルでもこの「封筒」に入る限りは1件とカウントされるので、取引基本契約書と反社会的勢力排除に関する覚書とか、業務委託契約書と個人情報の取扱いに関する覚書とか、入社関係書類とか複数セットで締結する場合には、割安になります。

以上から、平たくいうと、国内大手と比較した場合のDocuSignのビハインドは、登記では使えないことと、電子帳簿保存法のために一定の手間が必要なこと。反対に、国内大手との明確な違いは、グローバル認知度があること(これだけは多分数年のうちに覆らない)、と整理しました。事業者の拠点がどこにあるかの違いですね。

*1:備忘:認定認証事業者である必要があるみたいだけれど、認定認証事業者ならどこでもいいというわけでもなさそう…

*2:国内大手の場合、「電子帳簿保存法対応!」と謳っているけれど、あくまで対応したフォーマットを標準装備しているだけで自動入力ではなく、自分たちでやらなければならないんですよね。。紙こそ検索機能を確保すべきなのに、なぜデータ保存だけこんなにハードルが高いのか…