ここ最近、商標関連の驚くべき困ったニュースが2つありました。
①早期審査に変化あり
②類否判断に変化あり
早期審査が利用できない!
ひとつめの話題は、過日申請した早期審査が蹴られたという話。
商標出願の早期審査は、「既に使用している」か「使用の準備を相当程度進めている」ことを条件として、一定の場合に申請により受けることができ、今や10か月ほどかかっているFA期間がなんと2か月に短縮できるという魅力的な制度です(過去の紹介記事はこちら)。
FA期間が長期化しているからか、過去5年で利用件数は2倍以上、特に直近2年で急増しています。
これまでの疎明資料では早期審査の対象にならない
早期審査の対象にならないとされた理由は、「提出した事情説明書と資料では、『使用の準備を相当程度進めている』とはいえない」からでした。これまでは、出願商標が記載された何らかの外部とのやりとり(例として、商品デザインの見積書)を提出すれば認められていたのに…
今回は、商品の版下デザインの見積書を提出していたのですが、それでは「使用の準備を相当程度進めている」とはいえないと判断され、「卸先との受発注書などであれば、当該事実を示す資料として認める」から、その段になったら再チャレンジしては?という書面が送られてきました。。
卸先から発注書をもらう頃なんて、もはや上市寸前だから急ぐ意味なくなってるよ…
いつの間にか早期審査のルールが変わったそうで、代理人も知らなかったと言います。
背景には早期審査の申請件数の急増があるようで、対象を絞り込む代わりに、本当に「早期」審査する姿勢に変わった模様。
審査実務の変更により、先行登録商標を見つけた際、「早期審査して特許庁の判断を仰いでみようか?」ということはできなくなってしまいました。
デザインの発注書への記載は「商標」の「使用」に当たるのでは?
特許庁は、商品が発売されるかなり手前の「版下デザインの見積書」では「使用している又は商標の使用の準備を相当程度進めている」とはいえないというのですが、果たして本当にそうなんでしょうか?
商標の「使用」の意味は、商標法2条3項で定義されており、その中には以下のような定めもあります。
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。(略)八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
ここで「取引書類」とは、「注文書、納品書、送り状、出荷案内書、物品領収書、カタログ等」(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕1390頁)をいうので、商品の(版下デザインに関する)見積書だって「取引書類」とみることに違和感がないと考えるのですが、どうでしょうか?
類否判断が厳しくなった!
ふたつめは、類否判断が厳しくなったに違いないという話。
使いたい商標に類似する(かもしれない)先行登録商標が存在した場合、取りうる選択肢には、
①先行登録商標を譲り受ける
②先行登録商標のライセンスを受ける
③アサインバック(先行登録商標権者に出願してもらって登録後に譲り受ける)
④正面デザインでの出願など、要素を加えて出願して希望商標を登録する
⑤商標を変更する
⑥出願せず使う
⑦不使用取消審判を請求する
といったものがあります。
①〜③は、先行登録商標権者の協力がなければ実現できないし、断られた挙句に権利行使をされる可能性も否定できないので、かなりリスキー。⑤はスケジュール的に難しい、⑥は無防備すぎて怖い、⑦は登録後3年経っていないとかまだ商品が販売されているということで、④を選ぶことがあります。先行登録商標の識別力がさして強くないと思われる場合、④であれば、おそらく登録可能であり、万一、先行登録商標権者からクレームを受けても、登録商標を使用しているという抗弁をするという算段です。
しかし、過日、④を選択して、正面デザインそのものを出願したところ、先行登録商標に類似する(4条1項11号に該当する)として、拒絶理由通知を受けました。その先行登録商標は、識別力がかなり弱いように感じられ、④の方法であれば、過去は確実に登録が受けられていたのに、です。これまた代理人も初体験と驚いていました。
次の一手は難しい
あくまで拒絶理由通知ですし、仮に審査や審判で類似とされたからといって、権利侵害に当たる類似であると決まったわけでもない。けれど、審査官は先行登録商標に(強い)「識別力あり」の判断を下したわけですから、⑥で使い続けるのは無防備すぎるように思われ、これから作戦を練らねばなりません。。先行登録商標を使用した商品は、ここ数年は販売されていないようなので、不使用取消審判の余地があるのかも?と期待するのですが、ネットで検索すれば数年前の商品でもバッチリ出てきますので、あっさり使用が認められてしまう気もしています。
もはや、登録されるまで上市できない
以上のとおり、「これでいけるだろう」というこれまでの経験則が覆される事態が続きました。
かねてより、日本の商標審査はかなり寛大といわれており、それに対する不満も大きかったところですが、軌道修正されるとそれはそれで困るということに、今、気づいて焦っています。
これからは、ある程度商標をストックしておき、その中から時代にフィットしたものを選んでいくことになるのかもしれません。ライフサイクルの短い商品には割高ですが…