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大阪で働く法務パーソンのはなし

もっとも置いてけぼりの非正規社員

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先週の火曜日、旧労働契約法20条をめぐる訴訟で、賞与や退職金を求める原告の訴えを退ける最高裁判決がありました。
判決を読めていませんが、自分のこれまでの経験を踏まえても、今回の判決をもって「契約社員にはボーナスも退職金も不要」と一般論にしてしまうのは誤りと考えています。非正規で働く方が待遇改善を求めることや企業がほっと胸をなでおろすことは早いということでもある。現に、先週の木曜日には、手当の有無の差を「不合理」とする最高裁判決も出ています。

いろいろな職種・雇用形態

当社をとってみても、次のような職種・雇用形態があります。

派遣社員以外は当社と直接雇用契約があり、正社員と派遣社員を除く人は、みないわゆる「非正規」です。

それぞれがどんな仕事をしているのかをみると、一般職と契約社員には有意な違いがあるのか疑問があります。そもそも、雇用形態は公にはされておらず、多くの社員が「あの人は非正規」「あの人は一般職」などと認識して働いているわけではありませんし。

教育研修は飛び石で お金は幹部候補にかける

多くの企業では、教育研修は、総合職の新入社員〜数年目までと一定の昇格を果たした管理職候補〜幹部候補が手厚く、それ以外は手薄になっているのではないでしょうか。

つまり、総合職社員の研修は、それなりに計画とお金をもって実施され、英才教育を施された総合職社員の多くは、自走できる人間になっていきます。その後どのくらい飛躍するかはその人次第ですが、高みを目指そうとする(または目指して欲しい)幹部候補には、さらにお金をかけて経営能力を身につけさせるという仕組み。効果の高いところにお金をかけるという原則に照らせば、この方針は否定されるものではありません。

でも、会社には、総合職以外の社員も多く働いているのです。私は「総合職(正社員)だけ人材開発する」という今のやり方は、長く続かないと考えています。

労働力が漸減する時代

日本は人口減少局面に入っています。当社も高齢化が進んでいて、当面、入社するより退社する人のほうが多くなっていきます。これからAIやDXが期待できるといってもいまいまの仕事は変わらないし、労働力減で採用は困難になるし、何万人も抱えているわけではないから、単純作業を手放す分、より付加価値の高い業務に就けばよく、正規/非正規にかかわらず、今いる人材やこれから仲間になる人材をもっと大切にしたほうがいいです。

幹部候補が最も重要なら、そこへたどり着けるルート(母集団)をもっと増やすべき。つまり、総合職への道をもっと用意するべきだと思うのです。当社にも、一般職→総合職のルートはあるのですが、用意されているルートだと一般職を登りつめないといけないので、総合職になったときには40歳を過ぎてしまいます。才能とチャンスを潰している…

置いてけぼりの非正規社員

当社には、私に預からせてもらえたら、今いる働かないオジサンたちの何倍も貢献できる人材になるだろうなと思える若い契約社員派遣社員が何人もいます。とりわけ残念に思うのは、彼らが自分たちのポテンシャルを信じきれておらず、自走できる人になれそうなのに、そのきっかけをつかむことができずにいることです。まさに才能に蓋がされていて、本人たちも開け方がわからない状態。教育研修の機会を作って、外からちょっと持ち上げればいいのに。

会社も、非公式勉強会には参加を呼びかけるのですが、そういうところにくるのは総合職だけで、一般職正社員ですら顔を出しません。「だから一般職どまりなんだ」という見方もあるかもしれないけど、そりゃハードルが高すぎるという話。私だってほとんど行っていませんし…

もちろん、派遣社員契約社員のままがいい人もいるだろうから、強制する訳ではないけど、総合職に渡れる橋や、橋の渡り方の指南があってもよいのではないか。人のやりたがらない仕事もきちんとやっている姿を見ると、いつも心が痛みます。正社員と違って、賞与も昇給もない上、いつ切られるかもわからないとは。。
企業の広報やESG推進部門が大好きなSDGsは「誰ひとり取り残さない」ためのものだというのに。

最高裁判決を踏まえてー本当に「違い」はあるの?

ニュースを読む限り、先週火曜日の最高裁判決は、職務内容や配置転換の有無など「違い」があるから、待遇が異なるのも不合理ではないという判断だったようです。本当に違うのであれば、確かに不合理とはいえません。問題は「本当に違うのか」です。

正社員は転勤や配置転換があるから、契約社員と待遇が違ってもOKとかいいますが、正社員でも全くあるいはかなり長期間転勤していない人も結構多いのではないでしょうか。私も転勤したことはないし(命じられたら辞めるけど)、配置転換もありません。実はこれ、当社でも結構ある不満なんです。転勤したくないから、給与水準が下がってでも子会社に転籍した人もおりまして。
それに、配置転換はなくても業務分掌の変更はあって、仕事は変わるということも十分ありえます。実際、私の部署は、J-SOXやリスクマネジメントを担当していたこともあり、いつまた戻ってくるか、あるいは他の仕事が回されてくるかもわかりません。

今回の訴訟では論点になり得なかったかもしれないけれど、「違い」を争う余地は結構あるのでは?と悶々と考えた週末でした。