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大阪で働く法務パーソンのはなし

伝わったか確認する

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法務の仕事をしていると、「あのとき言ったじゃないか!」となるときに遭遇することがあります。
当社は、法務が突破すべき「関門」ではないので、法務の助言を簡単にスルーできてしまい、法務が強い企業よりトラブルが起きやすい。内心、開いた口が塞がらないときがあるのですが、自分のほうに至らなさがあるのではと感じ始めています。

法務のいうことを無視?

契約書チェックや事前の相談があったときに、「こうしてくださいね」「こうしないと問題が起きる可能性が高いですよ」と伝えることがあります。たとえば、類似の先行登録商標がある場合には、商標の変更を検討するようにとか、当社が買主のときに売主が商品の保証を完全に放棄していれば、仮に不具合があっても責任追及できませんよ、とか。

なのに、私たちの助言は採用されず、結果トラブルが生じてしまうことがあります。
そんなとき、「なぜあのとき、きちんとメールでも口頭でも説明したのに、無視されたのか?」思ってしまったりもします。

しかし、先日、あるワークを複数部門の人としてみて、依頼者は「無視した」のではなくて、こちらの意図が伝わっていなかっただけではないか?という仮説を持つに至りました。

届けたいことが届いていないことがわかるワーク

あるワークとはどんなものか。それはウェブ会議環境(対面であればホワイトボードか紙&ペン)があれば、最低2人からできる次のような簡単なワークです。

  • 一人数分、時間を決めて自己紹介をするワーク。まず数分話し、その後数分の質問タイムを設ける。
  • 開始前に、初回に「話す人」「訊く人」「書く人」「時間を測る人」を決める。
    話す人…自己紹介をする
    訊く人…話す人の話を聴いて、感じたことを話したり、質問をしたりして深掘りする
    書く人…話す人と訊く人の話したことをリアルタイムで共有しながら記録する
    時間を測る人…タイムキープ
    ※2名なら、話す人とそれ以外で役割を分ける
  • ひとりが話し終えたら、ローテーションをする

法務は耳が良くて手が早い?

私がしたワークでは、ほとんどが私より年下で、システム部門、管理部門、営業部門、生産部門といった人たちが参加していました。体力的には、私が一番劣っていそうでした。

そんなワークの成果物を見ると、話が10のうち3くらいしか拾えていなかったり、話した内容と違う内容が書き込まれていたりしました。たった数分の社員同士の自己紹介なのにです。なんでこうなるのだろう?

いうまでもなく?もっとも多くの情報量を拾ったのは、法務である私です。もちろん、すべてを拾うことはできませんでしたが、日頃の「記録をとる」鍛錬の成果が如実に現れていました。どうしても自分の関心/理解があるところばかり解像度高く拾ってしまうけれど、法務にいるとその偏りは少し正せてそうです。タイピングも早いので、話すスピードと書くスピードの差がまだ小さいということも確認できました。

探求的対話の欠如

話の内容がごく一部しか拾えていないことも残念ですが、ある程度想定内。悪いのは、「自分はこう聞こえたけれどもあっているか?」「私の言いたかったのは、そうではなく、こうである」「これは書いておいてほしい」という会話がなかったことです。せっかく画面共有をして、リアルタイムで記録を共有しているのに、そのようなやりとりはほとんどありませんでした。

それで気づいたのです。私のチームでは、「私の言いたいことは伝わっていますか?」「それはこういう意味に聞こえましたけど合っていますか?」と探求的に訊くのは当たり前。特に若手には、難しい説明をすることも多いので、そのときには、どう伝わったかを訊きます。しかし、こういうことは、他のチームではあまりして(できて)おらず、心理的安全性が低くなる越境的な(他部署との)やりとりでは、なおさらできないんですね。

心理的安全性を高めることから?

法務は、事実関係の確認が重要な仕事なので、相手が誰であろうが事情が許す限り「こういうことであっていますか?」と訊きます。でも、同じことを依頼者がするとは限らないという事実を直視できていなかった。こちらの届けたいことが届いていない可能性を見落としていました。

しかし、十分な信頼関係ができていない依頼者に、「どのように伝わったか聞かせてください」というのが難しいときもあります。そうすると、この問題をクリアするには、結局心理的安全性を高めるところから取り組んでいかねばというのが、私の解なのですが、これがなかなか難しい。

ともあれ、この自己紹介ワークは「どれだけ聞けていないか」「どれだけ伝わっていないか」が可視化されるので、ただアイスブレイクとして有用なだけでなく、社員の対話リテラシーを知るためにもおすすめです。特に「書く」という行為は、「あなたの声を受け止めた」「こう届いた」と可視化するので、話し手にとても良いフィードバックになります。

それにしても、あまりに情報を拾えていなかったので、商談は大丈夫かと心配になりました…営業研修でもやったほうがよいのでは。。