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大阪で働く法務パーソンのはなし

法務省がクラウド型電子署名を容認

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今週日曜の朝、日経電子版で次のような記事が出ていることを知りました。

取締役会の議事録承認、クラウドで電子署名 法務省が容認

一体どういうことなんでしょうか。

日経の報道

日経の報道は次のとおりです(5月31日の朝刊一面でも取り上げられています)。

 

法務省が取締役会の議事録作成に必要な取締役と監査役の承認についてクラウドを使った電子署名を認める。これまで会社法が容認しているかを明示する規定はなかった。新型コロナウイルスの感染防止策の一環で、署名や押印に関わる手続きを簡素にしたい経済界の要望を反映し、明確な方針を定めた。

法務省経団連など主な経済団体に通知した。 (以下略)

その通知、「主な経済団体」に所属していないウチのような企業がお目にかかることは叶わないのでしょうか…と思ったら、クラウドサインのオウンドメディアで紹介されていました(新経済連盟(の中の方)が公開してくださったそうです。)。それにしても、限られた大企業にだけ知らせるなんて、法務省も意地が悪いわ…

取締役会議事録への署名もしくは記名押印又は電子署名

取締役会議事録には、会社法上、書面で作成する場合には、署名又は記名押印が求められていて(会社法369条3項)、電磁的記録で作成する場合には、法務省令に定めるところに従い、署名又は記名押印に代わる措置をとることとされています(同4項)。法務省令には何が書いてあるかというと、その措置とは「電子署名」であって、「電子署名」とは以下のいずれの要件も満たすものとされています(会社法施行規則225条)。

  1. 電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であること
  2. 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること
  3. 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること

そして、決議に参加しながら議事録に異議をとどめなかった取締役は、当該決議に賛成したものと推定されます(会社法369条5項)。この規定を知ってか知らずか、議事録の確認依頼を出すと、明らかに発言の趣旨を変更したり、発言してもない発言を記入したりするように求める役員がいたりします。

実務上はクラウド型は不可だった

日経の記事では、会社法クラウド型の電子署名を認めているか定かでないという書きぶりですが、実務家は認められていないと理解してきたと思います。その理由は、登記では通用しないから。法務省民事局のサイトにも以下のような記載があります(商業登記規則36条も)。

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商業・法人登記の申請書の添付書面を電磁的記録で作成している場合について_ご利用の手引き(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji41-1.html(最終アクセス:2020年6月3日))

また、日経の報道が出るわずか10日ほど前、法務省は、「出席した取締役又は監査役が『電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス』を利用して電磁的記録をもって作成された取締役会の議事録に電子署名しても,当該電子署名は取締役等の電子署名ではないこととなり,会社法第369条第4項の署名又は記名押印に代わる措置としては認められないこととなると考えられる」と、消極的な見解を述べていました(2020年5月22日開催の規制改革推進会議成長戦略WG資料)。

短期間にすごい変容…ついに法務省が動いた。
作成者(出席役員)が自ら(現行の電子署名法に基づく)電子署名を施してなくてもOKになったんです。
ますます、そんな大事なことを一部の企業の団体にしか通知しないなんて…

商業登記規則はどうなる?代表取締役変更は?

総論として、取締役会議事録がクラウドサインをはじめとする事業者が電子署名する方法で電磁的記録により作成できることが明確になりました。しかし、一方で、登記はなお従前どおり(上記サイト)。前述のクラウドサインの記事によれば、法務省は「商業登記規則の改正や改正前の実務変更を機動的に行なっていく方向」とのことですが、私はにわかには信じられない…

代表取締役の変更を伴わない登記では、法務局的には「議事録の記名押印は朱ければいい」から、事業者による電子署名も特に問題ないと思うのですが、代表取締役の変更登記はこれまで厳格な運用が行われてきました。具体的には、就任登記には個人実印+印鑑証明書の提出が求められたり(就任承諾書に実印押印)、代表印を現に登録している代表取締役が出席しない後任選定の取締役会議事録には出席役員全員の実印押印と印鑑証明書の提出が求められたり、辞任届にも代表印の押印が必要だったり…という具合です。この運用、どう変更されるんでしょう。

これは従来どおり、紙かローカル署名で、ということかもしれません。ただ、そうすると、「なら全面移行はやめよう」「従来どおり紙のまま」と働く可能性があるので、議事録はすべてクラウド型でOKに統一されるとうれしい。

なお、ここで「取締役会議事録」にばかりスポットがあたるのは、株主総会議事録にはそもそも作成者の署名・記名押印義務がないからですが、これまた登記実務上は押印すること事実上求められているかと思います。これも、当然クラウド電子署名でOKになるか、会社法に立ち戻ってそもそも「不要」になるんですよね、きっと。

 

それにしても、こうも突然転換期って訪れるものなのかと驚いています。