先日、海外事業部が、ある海外企業と和文で契約するというので、いぶかしく思いながらも海外事業部が起案した和文契約書をレビューして返したら、案の定?「英訳もいるので英訳してほしい。」と言われました。
その契約書は、相手方の日本法人と当社がすでに締結している契約書をベースに作成されており、純日本的な暴排条項が入っておりました。。
クロスボーダーの契約書に暴排条項は普通ない
私の経験上、クロスボーダーの契約書で暴排条項を入れることは、基本的にはありません。そもそも、暴排条項は、暴力団追放運動の過程で生まれたものですので、我が国固有の契約慣習ともいえます。「暴力団」は日本にしかいないでしょう。
どう英訳するの?
しかし、作って出してしまった以上、英訳しないわけにはいきません。さて、どう訳出すればよいのやら。
暴排条項は、以下のような出だしで始まることが多いです。
(反社会的勢力の排除)
甲及び乙は、自己又は自己の役員が以下の各号のいずれにも該当せず…
「反社会的勢力」、そして「暴力団」「総会屋」「社会運動標榜ゴロ」など、反社ワードの英訳につまずきます。。
極意は「サンプルを探す!」
どうやって訳出すればよいかわからないとき、というよりも、単語の訳出に当たってまず何をすればよいか?
私は、とりあえず法務省の日本法令外国語訳データシステムで検索してみます。政府の正式訳というわけではありませんし、もっと良い訳があるのでは?*1と思うものに出くわすこともありますが、原則活用することにしています。なぜなら、誰も文句がないでしょう?
ここでは、「暴力団」が「organized criminal group」と掲載されていましたが、「総会屋」などはなし。
では、次はどうするか。私の場合は、いったんweblioなどで英訳をかけてみて、目星をつけた上で、関係の深そうな省庁の英文サイトを検索するようにしています。暴排条項ですと、期待に応えて金融庁が英訳資料を載せてくれていて、以下のように訳出されていました。
反社会的勢力→anti-social forces
総会屋→racketeer groups
社会運動標榜ゴロ→groups engagin in criminal activities under the pretext of conducting social campaigns
特殊知能暴力集団→crime groups specialized in intellectual crimes
日本語では今ひとつイメージしきれない単語も、英訳して逆に意味が理解できることもありますね。
もっとも、省庁もいつも完璧というわけではなく、別の資料ではまた別の単語が使われていることもあり、調べすぎるとキリがありません。複数使われていればOKなど、適度に妥協します。
それでも見つけられない場合は、信頼できそうなグローバル企業の英文サイトで探します。最近は英文サイトを充実させる会社さんが多いので、ここまで広げると大抵解決します。
以上のとおり、下書きで直訳してみることはあっても、基本的には「誰かが使っている英訳」を使うようにしています。ネイティブではありませんから。
おまけ:AI翻訳の腕前やいかに
我が社では、あるAI翻訳を導入しており、今回もファーストドラフトはAI翻訳さんにお願いしたのですが、暴排条項はもちろん、全体的に精度が良くなかったです。
英文和訳もあまり精度があがっておらず、本当にAIが完璧に訳してくれる未来が来るのか、ちょっと不安です。契約書を理解できるなんて、人間でも相当難しいですもんね。