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大阪で働く法務パーソンのはなし

電子契約サービスのリサーチが一周巡って…

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コロナ禍のおかげで、我が社では遅々として進まなかった在宅勤務がいきなり導入されました。あまりに突然の出来事で準備もできていないから、「管理業務系」の「在宅勤務」みたいなタグのついたセミナーがあれば、メンバーで分担して片っ端から受けたり、在宅勤務の不自由さを乗り越えるためにリーガルテックの研究に(今更ながら)勤しんだりしたこの数か月。

とりわけ、電子契約について研究したのですが、「電子契約一択」はナシかなという結論に至りました。

電子署名からしてギブアップ寸前

電子契約というのは、広義には「何らかの電磁的方法により締結された契約」(あるいは紙でも口頭でもない契約?)と表現できると思いますが、事業者の提供する電子契約サービスを選定するには、電子署名と(認定)タイムスタンプを理解する必要があります(過去記事も参照)。ここが最初の難関。

ローカル電子署名

まず、電子署名には「電子署名法上の電子署名かどうか」という分岐があり、その次に「誰が電子署名を施すか」という分岐が続きます。

電子署名法では、電子署名の定義を①本人性の確認と②非改ざん性の確認、を満たすものとしていて(電子署名法2条1項)、本人が電子署名法上の電子署名をしたことを証明する手段として、第三者機関が証明した電子証明書を付すことが一般的です。

電子署名法上は、電子署名の技術について特別の定めはありませんが、電子証明書を発行してもらえるのは、今のところ「ローカル署名」と呼ばれる、秘密鍵に相当するものを本人が物理的に管理する方法による場合のみのようです。これが、事実上「電子署名法上の電子署名とはローカル署名のみ」と言われる所以。なお、物理的管理を求めない「リモート署名」も明示的に認めるための改正案が6月15日に衆議院に提出され、閉会中審査になっていました。

そして、電子署名法上の電子署名が施されていれば、文書が真正に成立したものと推定されます(電子署名法3条)。

タイムスタンプ?

電子署名というのはサイバー空間での行為なので、どのような形式であれば、「いつ」「誰が」「何に」署名したかの証跡(ログ)が残るという認識です。加えて、「誰が」「何に」については、上述の電子証明書やその他の手段でも証明できそうですが、「いつ」は端末等の設定に依存することがあるらしい。そのために、「いつ」「何が」存在していたかを証明するタイムスタンプという仕組みがあります。確定日付のサイバー空間バージョンといった感じでしょうか。ちゃんとした?タイムスタンプを付与できるのは、認定を受けた事業者に限られていて、当該事業者により付されたタイムスタンプを「認定タイムスタンプ」と呼びます。認定タイムスタンプの有効期間は10年ですが、繰り返し付与することで長期の証明も可能です。

電子署名+認定タイムスタンプで、「いつ」「誰が」「何に」署名したか、つまりどのような契約がいつ成立したかが担保されるというのが、一般的な電子契約の仕組み。

証拠力やいかに?

紙からデジタルに移行するにあたって、法務パーソンとして気になるのはデジタルで作成されたものの証拠能力です。ここも難関。

書面なら、「二段の推定」が働きます。そして、本人により電子署名法上の電子署名が施されている場合も、当該電磁的記録が真正に成立したものと推定されます(電子契約法3条)。条文を読む限り「ローカル署名」でなくてもOKです。あれ?では、電子署名での電子契約書や認定タイムスタンプって何のため?(認定タイムスタンプは電子帳簿保存法の要請もありますが…)

事業者乱立で思考停止…

ここまできてやっと事業者の比較ができるかなと思うのですが、数が多いのと率直に言って説明が分かりにくいのとで思考停止状態です…

事業者のサービスを比較検討するために必要な情報は、①電子証明書が発行される電子署名であるか、②その電子署名を施すのは当事者か事業者か、③認定タイムスタンプが付与されるかどうか、④費用はいくらか、が欠かせないと思うのですが、これらがパッとはわかりません。。「わからない」ということは、対応していないということなのでしょうが。

電子契約は唯一解ではない

今の慣行を見直す中で、事業者のロビイングを含む熱心な広告宣伝活動のために、「脱紙」「脱ハンコ」は至上命題、電子契約が唯一解、と踊らされかけていたのですが、メールやワークフローだって選択肢という気づきも得ました(過去記事)。また、先日、「押印についてのQ&A」なるものがリリースされたこともあってか、最近の「電子契約推し」な風潮への鋭い指摘にも接しました(電子契約事業者の動きを冷静にご覧になる方も多いのですね…)。

電子契約事業者がプッシュする電子契約の強みは、文書が真正に成立したものかどうかという形式的証拠力に過ぎません。そして、まともな相手なら形式的証拠力を争うことは考えにくい。悪い相手に当たる可能性もゼロとは言えませんけれども。

わざわざ1通●円の課金をしてまで電子契約サービスを利用する価値のある契約って、本当はどれくらいあるのか、利用する価値のない契約はどのように電子化するのか、まだまだ研究は続きます…