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大阪で働く法務パーソンのはなし

【電子契約の勉強④】結局、どうやって選べばいいの?

 

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電子契約に関する一連の備忘メモは、今日で一区切り。最後は、「結局、電子契約を導入すべき?するならどのサービスにすべき?」という核心の話です。

やっぱり電子契約(脱紙)のメリットは大きい

電子契約を導入するメリットはいくつか言われていて、そのうち必ずと言っていいほど推されるものに「印紙税の節約」があります。
印紙税って間接部門のコストのどれだけを占めるんだ?と、私はこの宣伝文句には懐疑的ですが、いち法務パーソンとして、「この契約書はいくらの印紙を貼ればいい?」という、<あまり知的好奇心を刺激しないくせに回答に窮する確率>がそこそこ高い質問から解放されると思うととてもうれしいです。

ほかにも、以下が大きな導入のメリットといえるのではないでしょうか。地代家賃や人件費に与えるインパクトがそこそこありそうです。

  • いつでもどこでも決裁(署名)できる →スピード感↑
  • 契約書の保管スペースを確保しなくていい →地代家賃↓
  • 製本したり郵送したりしなくていい →人件費↓(郵送料はサービス利用料でチャラ)
  • PDFにとって台帳をつけたりしなくていい →人件費↓
  • 欲しい情報をすぐに取り出せる →人件費↓+DX-ready

つまり、電子契約を導入は検討に値する。というか、できる限り移行させたい。

再び、事業者に踊らされない 

いざ事業者のリサーチを始めると、「電子契約のシェア●%」とか「●●社(有名企業&企業数)が利用」とかいう広告に接します。
誇大広告とはいいませんが、眉唾もの。どんな契約に利用しているのか、もとい、どんな契約には利用していないのかを慎重に見極めたいところです。当社でも、電子契約を一部使っていて、導入企業と紹介されることもありますが、当社で電子契約を使うのは、割合でいえば、今はまだ全体の1%以下ですし、重要度も高いとはいえない契約です。また、ある企業は、クラウドサインもDocuSignも使うというし*1、ある企業は重要契約(取引基本契約など)は従来どおり紙ベースで締結しているといいます。先日、対外的に「脱ハンコ」を宣言された他社さんの内情を教えていただきましたが、その企業も「まだまだこれからですよ」とのことでした。

各事業者のサイトに載っている有名企業のロゴマークを見て焦ることはありません。

事業者の選定ポイントは?

では、何を基準に事業者を選定すればよいでしょうか。

  • コスト
  • 先方への負担(アカウントや電子署名の登録、費用負担を要するか)
  • UI・UX(API連携の可否含む)
  • 本人性と非改変性(電子署名法2条1項を満たすか)
  • 電子証明書(認定認証事業者によるものか/登記に使えるか)
  • 認定タイムスタンプ(長期署名にも対応するか)
  • 電子帳簿保存法準拠
  • 事業者の安定性

以上がポイントになり得るかな?と事業者を比較検討を重ねてきました。

慎重になる横で、海外取引先とはPDFで済ませている

電子契約を導入するのであれば、本人型であるか立会人型であるかのオプションはあっても、事実上はリモート署名一択です。そして、リモート署名は、現行法では、電子署名法2条1項は満たす(=文書作成としては署名や記名押印に代わる)けれども、3条は満たさない(民事裁判で争いになれば、真正成立の推定効(二段の推定)は働かない)。

リサーチを続けていると、二段の推定に付きまとわれて?取引基本契約や合弁契約のような、かなり長く存続することが想定される重要な契約まで電子契約に移行してよいのか?と立ち止まってしまいます。雑誌記事などを読んでいると、他社さんもそうらしい。

しかし、冷静になってみれば、これまでにも海外の取引先との間では、サイン頁のPDFやりとりだけで済ませることが多々あり、契約書の種類も制限してきませんでした。事業会社に移って、このプラクティスに初めて接したとき、サイン頁の前の部分が改竄されたらどうするんだろう?とハラハラしたけれど、現実になったことは一度もありません。なのに、なぜ同じ商慣習の日本企業との間でこんなに気にしてしまうのでしょう…

結局、どれでもいいのでは?

結局、電子契約を導入するなら、どの事業者がいいのか。
以下を総合勘案すると、少なくとも契約については「どれも大差ない」といえそうです。今、取締役会議事録を電子化して登記でも使おうとすると、Agreeクラウドサイン の二択になりますが*2

  • 電子署名法3条の推定効が必要な場面はおそらくほとんどない
    ∵通常、大抵の契約は交渉過程が何らか残るはずで契約の成立を争う可能性は極めて低い。
  • 電子証明書がモノをいう場面もおそらくほとんどない
    ∵同上+大手のサービスなら本人性の要件はクリアできていそう
  • 認定タイムスタンプ又はDocuSignのサービスなら、長期にわたる非改変性の要件もクリアできる
  • 認定タイムスタンプがなくても電子帳簿保存法には対応可能だし、どのサービスでも検索性の確保(=一部手入力)が必要
  • 大手はどこも上場しているかその子会社なので、安定性もほぼ横並び
  • 年間コストもおそらく似たようなもの

つまり、決め手は、①先方への負担をどれほど要するか、②UI・UXに優れているか、③登記にも使うか、の3点であり、①は大手(Agree(契約印)・クラウドサイン ・DocuSign)ならどこも同じ(先方の事前準備不要)、②は評価(好み)とこちらの技術の話、③は原則年に1回の話で、重要な点において大きな差別化ポイントはなさそうです。

個人的には、今後の機能拡張にも期待して*3マーケティング上手なクラウドサインが推しかなというのが今の感触です。

*1:実際、両方の事業者のサイトに利用企業として紹介されている企業も…

*2:DocuSignの営業の方は、DocuSignも国に働きかけているとおっしゃっていましたが、サービスの設計が違いすぎるので難しそう…

*3:橘さんが契約アナリティクスに注力されると信じています。値上げが怖いけれど…