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大阪で働く法務パーソンのはなし

表記のゆれが気になる

部下の起案や他部署からの依頼で書面をレビューするとき、私は内容と同様に、あるいはそれ以上に、どうしても気になってしまうことがあります。

それは、表記のゆれ。

 取消/取り消し/取消し

 取消す/取り消す

どれを使うか、決めていらっしゃいますか?

そして、それをひとつの書面で統一されていますか?

送り仮名のつけ方のよりどころ

送り仮名のつけ方については、行政機関に対しては内閣訓令が、一般人に対しては、内閣告示が定められています。もちろん「定められている」といっても、強制力などあるはずもなく、私たち一般人にとっては「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための送り仮名の付け方のよりどころ」となるものです。

www.bunka.go.jp

 

この告示は、「通則」という原則が7つ示されているだけの簡単なものですが、結構用例豊富で理解が進みます。冒頭のような複合の語については、通則6と通則7があり、冒頭のくだりは通則6に定めがあります。

通則6

本則

複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単語の語の送り仮名の付け方による。(略)

許容

読み間違えるおそれのない場合は,次の()の中に示すように,送り仮名を省くことができる。

〔例〕

抜く(書抜く) 申込む(申込む) (略)

 

つまり、基本は、「送り仮名は全部つける」が原則だけれど、なくてもわかるものは省略可能ということです。さらに慣用が固定化したものは、慣用にしたがって送り仮名をつけないとされています(通則7)。

 

翻って私のルール。名詞の場合、「取消し」のように、最後の送り仮名だけつけ、動詞は「取り消す」のようにすべてについて送り仮名をつけるようにしています。

 

好き嫌いではなくて、最初に入った法律事務所の表記コードが基本的にこれだった、というだけです。

 

法律事務所では、デュー・ディリジェンス(「DD」)などで、複数の人間が最終的にひとつの成果物(DDの場合、DD報告書)や継続した書類を作ることは珍しくなく、あたかも一人の人間が書き上げたかのように、表記コードを厳格に定めることが通常かと思います。これは、通常は、フォントやポイント、項目の立て方、脚注の打ち方、引用の仕方…といったものだと思うのですが、私は、新人時代、送り仮名のつけ方もみっちり教育を受けました。

 

新人は、文書をドラフトしたら、それをプリントアウトして先輩に見てもらい、先輩は鉛筆(なぜか法律事務所は鉛筆が好きです。)でそれをレビューし、本人に直させる、というトレーニングを受け、してきたのですが、先輩はそれはもう、機械かと思うほど正確に送り仮名のつけ方までチェックしてくださったものです。

 

それでもなお表記のゆれが残り、クライアントの手に渡ろうものなら、クライアントからチクっとクレームが来て、担当弁護士経由で叱られる…という経験をしたことがあります。

表記の統一は、相手への誠意

今、クライアントの立場になって、弁護士事務所からいただくドラフトに誤記や表記のゆれがあると、「そんなところに報酬払ってないしな」と、私自身はほとんど気にしません。表記の統一は、書面を受け取る相手方への誠意を示すものだから、そこの確認は自分がすべきだという考えです。

 

しかし、、実際には、表記が適当な書面が流通しているものです。

そんな書面に遭遇すると(つまり、ほぼ毎日)、私は、「この会社テキトーだな」とか、こんな文章を書く人は、「意味がわかればなんでもいいでしょ」という考えなんだなと理解してしまい、誠意を感じられません。

そんなことで相手の誠意を汲み取れないなんて、心が狭いかもしれませんが…

 

それでも、私はまだ部下に言っています。

「私たちがいなくなってもこの契約書は残るかもしれない。そのときでもきちんと今の理解が表現されているように、正確に、かつ、わかりやすく起案すること。そして、細部にも気を配ること。それが、私たちが示せる相手への誠意だから。」

やっぱり判決文は素晴らしい

表記や表現に関しては、やはり判決文が素晴らしいお手本です。最高裁判決などになると、無駄がなく、一字でもとることができないように思われます。

経験を重ねた裁判官であれば、表記の統一なんて意識することでもないと思いますが、裁判官が感じられている判決文を書く重みや込められた誠意を、私は判決文から感じるので、このような文章が書けたらいいなと思うのです。

この先の人生で判決文を書くことはないはずですが。