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大阪で働く法務パーソンのはなし

「書面をよこせ」と言われたら

 

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当社は、まったくの個人から、日本を代表するような企業まで、ご贔屓にしていただいています。ですので、組織も、地場の個人・中小企業とする地域営業と、全国規模の大企業を相手にする法人営業とに分けています。

しかし…ややこしいお得意先というのはどちらにもいらっしゃるもので、何か不手際があると、すぐに「書面をよこせ」とおっしゃったりします。

書面での顛末と再発防止策の報告を強要する

よくある「書面をよこせ」のパターンのひとつは、「顛末と再発防止策を書面にまとめて報告せよ」というもの。

重大事案であれば当然のことで、当社でも書面でのご報告を求めることはあります。誰かの伝聞ではなく、当人の見解をそのまま伝えられるというメリットもあるし、社内の関係各所に報告するには便利です。ですので、重大事案なら謹んでお受けします、というか、言われなくても書面でご報告させていただくと思います。

しかし、「オタクの社員が買い物もせずにウチの店の駐車場に車をとめた」とか「作業中にぶつかりそうになった」とかいう事案で、「書面持って責任者が謝りにこい」などと言われると参ってしまいます。
こういうことをおっしゃるお得意先は、たいがい大口の得意先がバックについていらっしゃるので、当社としてもそちらの顔色を窺いつつ対応するというのが正直なところ。つまり、すんなり応じがちです…こちらも落ち度がありますし。

書面で見解をよこせという

もうひとつよくあるパターンは、「会社の見解を書面でよこせ」というものです。
要は、先方がご自身の納得のいく対応を得られなかった場合に、(腹いせ的に)言質を取ろうとするパターン。何かお申し出があった場合に、「当社に責任はないと考えるので、対応しかねる」と回答すると、「書面で見解をよこせ。弁護士にみてもらう」というやつです。

私としては、「そんなもの応じるな」と言いたいところですが、真面目な現場の社員は、「はい、わかりました!本社と相談して作成します!」みたいな感じで喜んで引き受けてしまうことも。書面になれば、本社がよしなに作ってくれると思っているのかもしれません。

最小限しか書かない

以上のような流れで、書面を提出する羽目になった場合、当社では、一旦は現場が書面案を作成するのですが、そういう書面の書き方を教えてないから、法務で添削をすると原型をとどめなくなります…法務だって、そういう書面の書き方を特別習ったわけじゃないけど。

一生懸命書いたんだろうなというのは伝わるけれど、受け手からしたら確かに読みづらく、全体の印象が「お詫び+これからもよろしく」になっているものが多いです。なんとなく「謝っておけばいい」という気持ちが透けて見える。
特に「見解よこせ」パターンの場合、発端となったそもそもの要求も、「書面で見解よこせ」という要求も、不当に近いことが多いので、会社として毅然とした態度を見せる必要があります。だから、書面でヘコヘコ謝ってくれるな!と言いたい。相手も謝罪文書を要求しているわけではないし。

私たちのチームでは、「見解よこせ」のパターンは「必要最小限しか書かない」を鉄則にしていまして、本文は「前略 お問い合わせの件について、下記のとおりご回答申し上げます。草々」のみとし(時候の挨拶はもちろん、「拝啓」すら使わない)、あまり法的な論理は持ち出さず、見解も「契約に定めがないので、責任はないと判断した」というような簡潔なものにします。「これ以上言ってもムダ」ということが暗に伝わるような内容を心がけています。もし、これ以上何か言われたら、法律論を持ち出すのですが、今のところ、そこまでいった事例は1件だけです*1

ただし、書面はかなりそっけない内容になっているので、現場の方には、「これを持って説明に行くんですよね?謝罪は口で十分してきてください」とお願いしています。おそらく先方も、「書面もってこい!」と言った時から時間を置いて冷静になり、もう一度(ご不快な思いをさせたと)謝罪をすることで、振り上げた拳を下ろしやすくなるのではと思われます。そっけない文書を見たらまた腹が立つかもしれないけど…

応じるか応じないかは、重要度次第

ここまで、「書面をよこせ」の要求に応じる前提で書いてきましたが、必ずしも全てに応じる必要はないと考えます。全てに応じていたら、私たちもパンクするかもしれませんし。

断ることで生じるリスクと天秤にかけて、どちらを取るか?という話。「応じる必要なし」と判断した場合に、それを伝達しにいかなければならない現場はとても気の毒とは思いつつ…これまた「毅然とした態度が大切」と発破をかけます。

お詫び文や顛末書の書き方と合わせて、そういう研修をやってもいいかもしれないと考える今日この頃です。

*1:ある日突然訴えられたものの、答弁書を出したら取下げになったので、一体なんだったのか?と思います…