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大阪で働く法務パーソンのはなし

取締役会事務局を担当する方への裏技?

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先日、取締役会事務局担当者向けのセミナーに参加してきました。

基礎編ということだったのですが、とても実務的なお話を伺えたので、実体験も踏まえながらご紹介します。

にわかにアツい「取締役会運営」

今年の春くらいから、取締役会運営に関するセミナーが増えたように感じます。事務局新任者向けのものは、多くのセミナー会社さんで定期的に開催されているのですが、増えているのは「応用編」ともいうべき、最近のトレンドなどを紹介するもの。その背景は、ある弁護士によれば、「社外役員の拡大で相談が増えている」とのことで、じわじわとCGコードが効いてきた表れかもしれません。

今年に入って、経営法友会でもこのテーマで複数の月例会が開催されていますし、大規模法律事務所がクライアント向けに開催するセミナーでも、複数の事務所がとりあげています。

コンプライアンス実践を重要な使命とする私にとって、ガバナンス(「経営陣に正しいことをさせる」)はとても関心のある分野であることもあって、気づけばこの半年で3-4回も取締役会運営に関するセミナーを受けていました。

特別利害関係人かわからないときは2回決議

会社法上、ある議案について特別利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法369条2項)。しかし、何をもって「特別利害関係がある」とするのかは、会社法上は明確でなく、忠実義務違反になるような利害関係を有するか?という、時に極めて高度な判断を要します。一方、取締役会は、原則として定足数が取締役の過半数、決議要件は出席取締役の過半数となっています(会社法369条1項)。

ここで、取締役3名(A,B,C)からなる取締役会を想定します。ある議案について、AとBが特別利害関係を有する場合、両者は定足数からはじかれ、Cさえ賛成すれば決議が成立します。しかし、「実はAとBには特別利害関係はなかった」という場合どうなるか。定足数を満たさない取締役会だったので、決議不存在か決議無効という帰結になります。

以上のような不都合が起きてはまずいので、実務的にとられる方法として「2回決議をとる」という方法のご紹介がありました。親子間のM&AMBO案件など、極めてセンシティブな案件では用いられることが多いようです。具体的には、1度目は、特別利害関係が疑われる取締役を除いて決議を得る、2度目に同じ議案について全員参加して決議を得る、ということが行われるそうです。そうすれば、万一、決議不存在や決議無効の訴えが提起されても、片方の決議が生き残れるというわけです。

はんこを預かってもOK?

もうひとつ、大変実務的で弁護士からコメントを得られてとても安心したお話をご紹介します。それは、「役員の代わりに議事録に押印してよいか」問題。

実は、前職で私が取締役会事務局をしていたとき、以下のようなことをしていました。

議事録作成→関係者チェック(社外役員はメールで)→製本→押印(社外役員分は事務局にて)

社外役員が次回来社するタイミングはひと月先なので、内容にOKをいただいたら、こちらで預かっている三文判を押印していたのでした。迅速に議事録が作成できて事務局としては「仕事終わった感」が得られます。

このプラクティスについて、先日参加したセミナーの講師は「社外役員の手となってただ代わりに押しているだけなので、信頼関係があればOKと思う」とおっしゃっていました。「登記で必要な時以外、そんなに急いで議事録を作ることはないのだから、押印が調うまで、ひと月ふた月かかってもよい」とおっしゃる弁護士もいらっしゃるので、意見の分かれるところかもしれません。なお、我が社では、次回の取締役会で押印してもらっているので、完成まで早くてもひと月かかっています。

CGは「トップをチェックするしくみ」

先日のセミナーでは「コーポレートガバナンス企業統治)とは何か」というお話があって、CGコードで定義されているものの(おそらく有識者の妥協の産物で)直感的にはわかりにくいものになっているというご指摘がありました。

講師の弁護士が「コーポレートガバナンス」という言葉が出てきたら、これに置き換えるべき!と強く推薦されていたのが、神田秀樹教授による説明「トップをチェックするしくみ」。もう少し詳しく説明すると、暴走を止めるブレーキと企業価値向上へ導くハンドルなんだということでした。

私もこれからは、「CGはトップをチェックするしくみ」と覚えて周囲に伝えていこうと思います。