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大阪で働く法務パーソンのはなし

2023年の特定商取引法改正は法律だけじゃない

特定商取引法は法律の名前なので「法律の改正だけじゃない」は意味不明ですが、とにかく、今年の法改正の「厄介」がひとつ増えています*1

特定商取引法の令和3年改正のうち、最後に残っていた書面交付の電子化関連が2023年の6月施行を予定していますが、急遽?同じタイミングでアップセル・クロスセルの規制が強化されます。
「わかる、わかるよ、消費者庁!」とは思うのですが、通販業界はどうなるんでしょうね。

改正の経緯は不明

オペレーターの営業トークに乗せられて「買わなくていいものを買ってしまう」という事態がまま起きており、今回の改正でこれにメスを入れたいという消費者庁の思いは理解できます。しかし、そんな話ありましたっけ…?

以下の記事によれば、ある会社のアップセル・クロスセルが発端では?という考察がされていますが、なぜ今、このタイミングなのかよくわかりません。

www.tsuhanshimbun.com

アップセル・クロスセルの中に「やばい」ものがあるのは、ずっと前からなので、いよいよ国も手をつけたということか…にしても急!

本件に関して、JADMAはまったく存在感を発揮していないように思います*2

受電時のアップセル・クロスセルは電話勧誘販売

具体的にどう変わるかと言えば、電話勧誘販売のうち、電話をかけさせるパターンの具体的方法を定める特商法施行令2条1号が次のようになります(下線は変更部分)。

【現行】
電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、又はビラ若しくはパンフレットを配布して、当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること。

【変更後】
電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、若しくはビラ若しくはパンフレットを配布し、又は広告を新聞、雑誌その他の刊行物に掲載し、若しくはラジオ放送、テレビジョン放送若しくはウェブページ等(略)を利用して、当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること。

これまでは、ウェブや通販番組で「お試し」や「目玉商品」で消費者から電話注文をもらい、ここでのトークでさらに別の商品を売っても(インバウンド型のアップセル・クロスセル)、特定商取引法上の「電話勧誘販売」には当たりませんでしたが、今後は電話勧誘販売になります。

電話勧誘販売クーリングオフや書面交付の対象に

では、電話勧誘販売になったら何がまずいのか。

信販売よりも手間がかかるのです…うちのような本業でやっているというほどでもない会社にとっては結構負担になりそう。中でも大きな負担は、クーリングオフや書面交付の対象になることでしょう。

万一、電話勧誘販売のルールを逸脱していた場合には、業務改善の指示や業務停止命令などの行政処分に加え、刑事罰も用意されているのでおっかない。

参考:消費者庁特定商取引法ガイド

www.no-trouble.caa.go.jp

アウトバウンド営業はすでに電話勧誘販売

今回の改正では、電話をかけさせる方法として、ウェブサイトや通販番組(での別商品の広告)をきっかけにすることが新たに規制対象になります。

ところで実際には、アップセル・クロスセルには、アウトバウンド営業、つまり事業者が自ら電話をかけて行うものもあります。ウェブ申込みをした消費者に電話で営業をかける、みたいなパターンですが、これは改正前でも電話勧誘販売に当たるはずです(特定商取引法2条3項)。
以前、身内がこれでまんまと定期購入に引き上げられたのですが、ちゃんと書面交付を受けていただろうか…

電話勧誘販売にならないために、何を書いておけばいいのか

電話勧誘販売になるなら潔くそのルールを守るという選択肢がいいのですが、できることなら回避したい。
そうすると、アップセル・クロスセルを「勧誘するためのものであることを告げずに」電話をかけさせることがNGなのだから、それらを勧誘するためのものであることを広告で示せばいいのですが、消費者庁からガイドラインが出ません…

「このお試し広告を見て電話した方には、定期購入の提案をさせていただく」とさえ書いておけばいいのか、「定期購入」がどんなものかも書く必要があるのか、クロスセルの場合は提案可能性のあるすべての商品を列挙すべきか、、、指針がありません。

まあ、不意打ちの是正が改正の目的のようですので、これらについてはなんとか対応するとしても、たとえば、

  • ある商品の「白」を申し込もうと電話してきた消費者に、「白は売り切れだけど黒はあります」と説明する
  • ある商品をバラで3個申し込もうと電話してきた消費者に、「お得な3個パックがあります」と説明する

といったことまで電話勧誘販売になるのでしょうか。

さすがにそんなことまで規制はしないと思うのですが、何が「見せしめ」1号になるのかちょっと戦々恐々です。

*1:もうひとつは、電気通信事業法です。総務省も情報提供を充実させてくれているけれど、社内が追いつかない…涙

*2:本件に限ったことではないのかもしれませんが…