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大阪で働く法務パーソンのはなし

下請取引における電磁的記録の提供

自社では、下請事業者との取引に自社指定システムを用いることがあるのですが、そのシステムでのデータ提供を3条書面と同視できるか検討してみました。

結果、最初の一歩でつまづいた。。自社が使おうとしているシステムは、「電磁的記録の提供」方法をクリアできているのか、というお話。

3条書面の交付義務

確認するまでもありませんが、下請法3条1項は、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに…下請事業者の給付の内容、下請代金の額…を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。(以下略)」と、発注時に発注内容を書面で交付することを親事業者に求めています。

ただし、同条2項では、「親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて…下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を…情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則に定めるものにより提供することができる。(以下略)」と

  • 下請事業者の承諾
  • 公取委の定める基準のクリア

を条件に、書面以外による方法を認めています。

公正取引委員会規則に定めるもの」とは

では、公正取引委員会規則には何と書いてあるのか。この公正取引委員会規則とは、「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」のことで、電磁的記録での提供については2条に定めがあります。

 

第2条 法第3条第2項の公正取引委員会規則で定める方法は,次に掲げる方法とする。
一 電子情報処理組織を使用する方法のうちイ又はロに掲げるもの
イ 親事業者の使用に係る電子計算機と下請事業者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて下請事業者の閲覧に供し,当該下請事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法(法第3条第2項前段に規定する方法による提供を受ける旨の承諾又は受けない旨の申出をする場合にあっては,親事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルにその旨を記録する方法)
二 磁気ディスク,シー・ディー・ロムその他これらにこれらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに書面に記載すべき事項を記録したものを交付する方法

2 前項に掲げる方法は,下請事業者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものでなければならない。

(略)

ちょっと難解ですが、典型例は次のようなものです。

1項1号イ→親事業者がメールで送る
1項1号ロ→親事業者の指定システム(ダウンロード可能なもの)で下請事業者にみてもらう
1項2号 →親事業者がUSBなどに保存して渡す

システム画面のスクショはNG?

自社指定システムを使う場合、上記規則の2条1項1号ロにあたりますが、下請事業者にただ見てもらうだけでは足りず、下請事業者が自身の端末にその情報を記録できるようにしなければなりません。この点、下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項でも以下のとおり明確に説明されています(第1の2(2)。下線・強調筆者)。使っている言葉が時代を感じさせる…

 

書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず、下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールを送信するか,ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして下請事業者のファイルに記録できるような方策の対応が必要となる。

公正取引委員会の心は、「システム上でいつでも閲覧できるといっても、突如使えなくなって下請事業者が発注内容を確認できなくなってしまうおそれがあるから、下請事業者で記録に残せるように親事業者がしておくべきだ。そこまで環境提供しておけば、下請事業者が実際にダウンロードしなくても、それは下請事業者側の問題。」ということでしょうか(どうも違いそう)。

ここで浮かぶ疑問。

  1. スクリーンショットではダメ?
  2. 印刷機能(PDF化含む)を持たせることではダメ?

どのPCでもスクショはとれるはずで、とったスクショは下請事業者のPCに記録されるのだから、これでいいのではないか。「それだと親事業者は何もしていない」と言うなら、百歩譲ってシステムに印刷機能を持たせれば十分ではないか。無料でPDF化はできるのだから。

印刷機能を持たせるくらいなら、ついでにダウンロード機能も作ってしまえばいいのですけど、上で下線を引いた「など」「等」というぼやかしがどこまで許容してくれるかなと妄想した次第。

下請事業者がダウンロードしたことを確認する?

下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項では、次の記載があります(第2の4。強調筆者)。

 

親事業者がシステムの故障等により下請事業者に対して,直ちに書面の交付に代えて電磁的記録の提供を行うことができない場合は,当該下請事業者に書面を交付する必要がある。また,親事業者が書面の交付に代えて電磁的記録の提供を行うに当たって,電磁的記録を送信し又は下請事業者が閲覧した場合であっても,下請事業者のファイルに記録されなかったときは,下請法第3条に違反することとなるので,親事業者において下請事業者のファイルに記録されたか否かを確認することが必要となる。(略)

これを読むと、先ほど私がした公正取引委員会の心の読みは間違っていて、スクショなんて論外だし、印刷機能もアウトですね。。
メールは不達だったらすぐにわかるけれど、システムだと下請事業者がダウンロードしたことを逐次確認するのは難しいし、できないシステムもありそう。。システムを3条書面に置き換えるのって、めちゃくちゃハードル高いですね。